奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)は、生体内で神経を光刺激するための超小型ワイヤレス型デバイスを開発したと発表した。
この成果は、先端科学技術研究科 物質創成科学領域の徳田崇准教授、太田淳教授、モントリオール理工科大学のMohamad Sawan(モハマド・サワン)教授らによるもの。詳細は、米国オンライン科学誌「AIP Advances」に掲載された。
生命現象を光で操作するオプトジェネティクス(光遺伝学)の急激な進歩に伴い、小型・軽量・ワイヤレスの生体埋め込み光刺激技術の開発が進められてきたが、従来の電磁波による電力伝送は、デバイスサイズが1mm付近に至ると極端に効率が低下することが課題とされてきた。
そこで研究グループは、1mmクラスの超小型化のためには、面積を小さくしても得られる電圧の変わらない太陽電池を用いた光電力伝送を利用するほうが合理的であると考えた。数mmから数cm程度の距離で生体内に侵入することができ、埋め込み光刺激デバイスのためのエネルギー伝送に利用できるという赤色光や近赤外光(波長0.8~1.1μm程度)の特徴を利用する。
研究では、ごく小さな太陽電池でも、エネルギーが十分貯まるまで待ってから使えば、光刺激のための青色発光ダイオードを駆動できるという考えのもと、Si CMOS(相補的金属酸化物半導体)技術を利用して製造した1.25mm四方、厚さ0.15mmのチップ上に、発電能力がある超小型オンチップ太陽電池17個と、電圧監視・LED制御回路を集積化したものを用いた。
汎用技術で製造したCMOSチップに、独自の追加プロセス(加工処理)を施すことで、生体埋め込み対応ワイヤレス型光刺激デバイスを実現した。デバイスに赤外光を照射すると、0.1~数秒程度の充電時間の後、十分にエネルギーが蓄積された時点で青色の発光が得られたという。なお、デバイスの体積は約1mm3、重量は2.3mgであり、これまでの報告例と比較して最小であるという。
今回の結果により、実験動物の負担を低減し、自由に行動させながら、より自然に近い形でオプトジェネティクス研究を行うことが期待できるという。研究開発のためのツールとして、脳科学・神経科学の発展、ひいては創薬や医療の発展に寄与することが期待される。徳田准教授は、1年以内に共同研究中のグループとの詳細な実証研究を進めたいという考えだ。