米SLAC国立加速器研究所、国立標準技術研究所(NIST)、ノースウェスタン大学の研究チームは、人工知能(AI)による機械学習などを利用して「金属ガラス」の材料探索を高速に行う手法を発表した。金属ガラスは鋼鉄よりも硬く軽量で、耐腐食性などにも優れた材料であるが、大量に存在する候補材料の絞り込みや評価に長い時間がかかるため、これまであまり研究が進んでいなかった。今回の手法を用いることで研究開発のスピードを200倍程度速められる可能性があるという。研究論文は科学誌「Science Advances」に掲載された

  • 機械学習を通して予測された3種類の金属ガラスの組成が、実験的に作製した金属ガラスの組成とよく一致した

    機械学習を通して予測された3種類の金属ガラスの組成が、実験的に作製した金属ガラスの組成とよく一致した (出所:SLAC)

数種類の金属からなる合金材料の多くは、原子が規則的に配列して金属的な性質を示すが、適当な条件下では、ガラスのような非晶質(アモルファス)の原子配列をもつことがある。こうしたアモルファス構造の合金は金属ガラスと呼ばれており、鋼鉄よりも硬く軽量で、耐腐食性や耐磨耗性にも優れるという特徴がある。

保護コーティング用途や鋼鉄の代替材料として有望視される金属ガラスであるが、考えられる構成要素の組み合わせは数百万通り存在しており、このうち過去50年間の研究で実際に評価・検証されたのは約6000通りにしか過ぎないとされる。さらに、実用化できる可能性がある段階まで開発が進んだものとなると、数えるほどしかなく、これまでのペースでいくとすべての候補材料を調べ終わるのに1000年以上かかるといわれている。

このように研究に長い時間がかかり、実用レベルの開発までなかなかたどり着かない理由として、合金の原料となる金属の種類と組成比の組み合わせ数が多いことに加えて、同じ種類の金属を同じ組成比で用いた場合であっても、製法の違いによっても得られる材料の特性が変化するといった問題があるとされる。

研究チームは今回、金属ガラスの材料探索を加速させるために、AIによる機械学習を使って候補材料を絞り込む技術を導入し、さらに試作したサンプルの評価を素早く行える加速実験手法と組み合わせることによって、これまでにない高速な材料探索が可能になったと報告している。

今回の研究では、コバルト(Co)、バナジウム(V)、ジルコニウム(Zr)など3種の金属で構成される数千通りの合金について、この手法を使って調査したとする。

具体的にはまず第1ラウンドとして、過去50年間で蓄積された約6000件の実験結果を含む金属ガラス研究での材料データを機械学習アルゴリズムで処理した。

第2ラウンドでは、第1ラウンドでの学習結果に基づいて、2つの異なる製法で作った2組のサンプルを用意した。これらのサンプルを調べることによって、合金が金属ガラスに変化するときに製法の違いがどのように影響するかを検証することができる。

サンプルを分析する際には、研究チームが「HiTp実験」と呼んでいる加速実験の手法が用いられた。この手法では、「素早くたくさん失敗することで成果を出す」といういわゆるフェイルファスト(fail fast)の考え方がとられている。一度に数百種類のサンプルを作製して素早く分析することが可能になっている。

HiTp実験でのサンプル作製には「コンビナトリアル・マグネトロン同時スパッタリング」という成膜法が使われている。これは1回のスパッタリングによって組成の異なる薄膜を何種類も同時並行で成膜できる手法である。さらに、成膜したサンプルがアモルファスになっているかどうかを分析するため、SLACのシンクロトンを用いたX線回折(XRD)による測定が行われた。

HiTp実験のデータは、シリコンバレーを拠点とするAI企業Citrine Informaticsのデータベースに送られ、このデータセットをもとにした新しい機械学習が行われた。機械学習の結果は、さらに新しいサンプルを作製するために利用される。

このように機械学習とHiTp実験によるサンプル評価を繰り返すことによって、金属ガラスを発見できる率が上がっていくという。第3ラウンドでは試験されたサンプル300~400個のうちの1個、第4ラウンドではサンプル2~3個に1個というところまで金属ガラスの発見率が上がったとする。

研究チームが特定に成功した金属ガラスの組成は3種類あり、そのうち2種はこれまでに金属ガラスの作製に使用された例がない組み合わせであった。これらの金属ガラスについて、機械学習を通して予測された3種の金属の組成は、実際の実験にもとづくデータとよく一致したとしている。

自動化システムを使うと、1日に2000個以上のサンプルが分析可能であり、1年で20000件の組み合わせについてサンプル作製とスクリーニングができることになるという。過去50年間で6000件程度しか調べられなかったことと比べると、約200倍という高速での探索であるといえる。

今回の手法は、金属ガラス以外にも、発見するのが難しいさまざまな材料の探索に拡張できると考えられ、材料研究における時間とコストの節約につながると期待されている。