アパレル大手のユナイテッドアローズは、データマネジメントを活用したデジタルマーケティングによって顧客とのコミュニケーションにどのような変革をもたらしているのだろうか。同社デジタルマーケティング部の中井秀氏が、トレジャーデータが開催したイベント「Treasure Data ”PLAZMA” 2018 in Digital Belt」の講演で解説した。

  • ユナイテッドアローズ デジタルマーケティング部の中井秀氏

ブランド横断型会員組織統合の結果生まれた、データ統合の課題

ユナイテッドアローズは、「Beauty & Youth」「green label relaxing」をはじめ19のストアブランドを国内243店舗で展開(取材時)する多角的なビジネス展開を行っており、中井氏が所属するデジタルマーケティング部は、マーケティングオートメーションなどを活用して既存顧客とのエンゲージメント構築を行うCRMを展開するチーム、Treasure Dataのソリューションなどを活用したデータ連携の構築やマーケティングに有益なデータの出力、分析を中心に行うチーム、ECサイトの運営を統括するチームに分かれてブランドを横断したデジタルマーケティングを展開しているという。One to Oneコミュニケーションの最適化によるLTVの向上が、チームに与えられたミッションだ。

中井氏によると、ユナイテッドアローズにおけるデータ統合の動きは2016年に遡るという。同年、同社では各ブランドとECサイトに個別に展開していた会員組織を統合し、マーケティングオートメーションを導入。同時に、salesforce marketing cloudを導入して顧客行動に合わせた動的なセグメンテーションを可能にしたという。

「導入は問題なく行うことができ、当時は夢が広がった」(中井氏)

しかし、実際に運用を開始すると、すぐに様々な課題に直面することになる。中井氏は「運用を開始して、会員組織の統合と顧客データの統合は全く別問題だということに気がついた。表では顧客のポイントを横断的に利用できたり、全てのブランドで同じ情報を活用してコミュニケーションを取ることになるが、裏側では(ブランドごとに)全く別のシステムが連携して動いていた。すると、salesforce marketing cloudに蓄積するデータが全く足りないということになる。即効性のあるマーケティングオートメーションの鉄板施策さえ取り組めない状況だった」と語る。

つまり、当初のユナイテッドアローズでは、各ブランドやECサイトで個別にデータを保持しており一元化されておらず、各データを連携させることで様々な施策に取り組もうとしていた。その結果、施策事にデータ連携の開発が必要になり、データ連携のメッシュが溢れていく状況が生まれてしまったのだ。

「データが足りないという状況で“このデータが欲しい”と様々なデータ連携をツール間で張り巡らせていったが、それでもデータが十分ではないという状況に陥った」(中井氏)

  • データ連携が複雑になり、大きな効果を生み出せなかった当初のデータマネジメント

「データ連携が増えていってもなかなかそれを活用できず、さらに連携を開発すると運用も煩雑になっていった」と中井氏が語るように、施策ごとの個別連携が増えていく中で効果を生み出すことができず、データを活用したマーケティングがなかなか実を結ばない状況で、中井氏はTreasure Dataのソリューションによるデータの統合管理へと大きく舵を切ることになる。

“集約したデータに手を加えない”という選択が生んだ業務効率化

では、同社はTreasure Dataを導入してデータの統合管理を行った結果、どのようなデータマネジメントの最適化を実現したのだろうか。

中井氏によると、現在はECサイト、CRM、商品などのデータをTreasure Dataに集めて、それをBIツールやsalesforce marketing cloudで活用するというスキームを実現。データ連携に溺れてしまっていたデータマネジメントの運用を最適化したという。こうした経験から、中井氏はデータマネジメントにおいて重要なポイントを次のように語っている。

「これまでは、データマネジメントは必要なデータを利便性が高いデータマートで速やかに提供できる状態で保持することだと認識していた。しかし、実には新しいKPIや新しいツールにデータマートを都度対応させていく時間がなく、また我々の運用ではアドホックにデータを出したり集計する機会は多くなかった。デジタルマーケティングは先が読めないものであり、結果的に使いやすいデータは自由度・汎用性の高く、連携のスピードよりも連携自由度の高い状態で保持することが重要になる。データをローデータの状態で保持して、連携のためのAPI、SDKが充実しているTreasure Dataは、私たちのニーズに叶うものだった」(中井氏)

  • Treasure Dataに様々なデータを蓄積し、ツールへと出力している

中井氏によるとローデータの状態でデータを保持することで連携するツールに渡せないデータをなくし、データの加工や最適化はデータの受け渡し時にSQLによるプログラムを挟んだり、そのデータを使用するツール側で加工を行うというスキームにしたという。

「結果的に、使いやすいデータマートをデータベース側で持つよりも、業務の効率化につながった。データマートを作りすぎると汎用性を失い運用が煩雑になるため、Treasure Dataはデータソース(=データを集約する)の役割に徹し、加工をデータ利用サイドで行うことを想定して運用している」(中井氏)

データを集約する段階でデータマートを作り込み様々な加工を施すと、データを使うツール側の要件に応じてデータ側を修正するという手間がつきまとう。こうした運用の手間をなくすために、データにはあえて手を加えないという選択をした。その結果、ツール側でデータの加工を行う必要があるが業務全体で効率の良いデータマネジメントが可能になったのだ。

  • データ側での加工を行わないことで、データに連携自由度を持たせる

最後に、中井氏はTreasure Dataによるデータマネジメントの最適化がもたらした効果について、次のように語っている。

「全てのデータをローデータの状態で1カ所に置いておくことで、データマネジメントによるデータ関連業務の効率化が実現できていると実感している。データマネジメントのクオリティとスピードを高められたことで、これからはデータ連携の要件定義に掛けていた時間を顧客理解のための時間、顧客への提案を考える時間に使うことができるのではないか。また、Treasure Dataによって自社のデータを自社で管理することで当事者意識を持つことができ、アクセス解析やコミュニケーションシナリオの実装などの作業を内製化する意欲が高まった。それにより、顧客の動きをより近い距離で感じることができるのではないか」(中井氏)