ケンブリッジ大学を中心とする国際研究チームは、ペロブスカイト太陽電池にヨウ化カリウムを添加することによって、光電変換効率が向上することを発見したと発表した。研究論文は科学誌「Nature」に掲載された

  • ペロブスカイト結晶の原子構造 (出所:ケンブリッジ大学)

ペロブスカイト太陽電池は近年急速に研究開発が進み、商用のシリコン太陽電池に匹敵する高い変換効率が報告されるようになっているが、耐久性などに問題があり実用化には至っていないという現状にある。

今回の研究で用いられている「金属ハロゲン化物ペロブスカイト太陽電池」は、ペロブスカイト結晶構造中に存在する微小な欠陥によって電子がトラップされることで電気エネルギーとして利用できなくなる、ということが課題として挙げられている。このほかにも、光を照射することによって太陽電池セル内でイオンの移動が起こるため、これに起因してバンドギャップに変動が生じるという問題もある。

したがって、電子が結晶中でトラップされることなく速やかに移動できるようにすること、ペロブスカイト層の化学組成を調整することによってイオンの移動を固定化してバンドギャップ変動を防ぐことなどが、ペロブスカイト太陽電池の性能向上につながると考えられている。

研究チームは今回、ペロブスカイト層の化学組成を変えるために、ペロブスカイト溶液中にヨウ化カリウムを添加する実験を行った。添加されたヨウ化カリウム成分は、ペロブスカイト層の表面で自己組織化して、「修飾層」と呼ばれる薄膜を形成する。この修飾層にはペロブカイトの結晶欠陥を修復する効果があると考えられ、欠陥でトラップされる電子が減って自由に動ける電子が増えるため、変換効率の向上につながるとしている。さらに、修飾層によってイオンの移動が固定化される効果もあるため、バンドギャップを望ましい値で安定化することができるという。

デバイスのテスト結果から、カリウム添加したペロブスカイト太陽電池は良好な安定性を示しており、変換効率は21.5% と報告されている。

デバイスの性能改善に必要な修飾層の形成に特殊な成膜処理が必要なく、添加物を単純に溶液中に混ぜるだけで自己組織化によって修飾層を得られることがペロブスカイトの特徴である。インク状の溶液を基板に塗布するだけで高効率のペロブスカイト太陽電池が得られるため、ロールtoロール方式による量産化との相性が良いとされ、シリコン太陽電池と比較して製造コストを大幅に下げられる可能性がある。

また、ペロブスカイト薄膜の有望な応用分野として、シリコン太陽電池と組み合わせた「タンデム型太陽電池」がある。ペロブスカイト層をシリコン層に重ねることで光電変換に利用可能な光の波長が広がるため、変換効率の大幅な向上が期待できる。バンドギャップを適切に調整した二層のペロブスカイト薄膜からなるタンデム型セルの場合、変換効率の理論限界は45% 、実用上の限界は35% という高い値になるとされている。