さまざまな方法で通信を確保する手段を用意している携帯キャリアだが、早くも次世代通信規格「5G」を活用した災害対策の事例も出てきた。

3月8日のKDDIの訓練では、5G基地局の実験免許をわざわざ取得して臨んでおり、5Gで被災地と遠隔地にいる人をつなげるデモンストレーションが行われた。デモは、避難所に避難した母子が、遠隔地にいる父親とVRを介して連絡するというものだ。KDDIは同様の仕組みを使った一般用途の実験を1月にも行っている。VRは臨場感溢れる映像体験によって、従来の映像とは違う新たな価値を生み出す。災害時にこそ、「あたかも隣りにいるように感じられる価値」を提供したいというのが、今回のデモの狙いだろう。

  • VRの映像を瞬時に伝送した5G

  • 28GHz帯の電波を利用した

  • 360度カメラを用意し、避難所の母子の映像を親に届けた

  • 実験ではサムスン電子の機材を使用してデモが行われた

LTEから5Gへの進化では、「大容量」と「低遅延」「多接続」が3大メリットとなるが、VRはその中でも「大容量」と「低遅延」を活かしたものだ。VRは4K、8K映像を360度に引き伸ばして見せる。フルHDでさえ高画質なものはビットレートが数十Mbpsに及ぶ。解像度が4倍、16倍にも達する4K、8Kの映像を送信するには、既存のLTEでは容量が足りなくなることは、想像に難くない。

今回の訓練では、200Mbps程度のアップロード速度を記録しており、避難所側でVR向け動画を処理、送信して遠隔地側の父親へと瞬時に届けていた。低遅延についても、電波の搬送路としては数ms程度の遅延を実現していたが、「むしろ映像のエンコード/デコードで数百ms単位の遅延が生じる」と、KDDI モバイル技術本部 次世代ネットワーク開発部 アクセスグループ グループリーダーの黒澤 葉子氏は話す。

5GはLTEの通信技術をさらに昇華させたもので、根本的な新技術ではない。それであっても、将来的には20Gbpsという大容量、1msという低遅延、1km2あたり100万台という多接続環境が実現する。「通信がボトルネック」という時代が終わる未来が、そこまで来ているいい例だろう。

  • KDDI モバイル技術本部 次世代ネットワーク開発部 アクセスグループ グループリーダー 黒澤 葉子氏

  • 5Gは多大なるメリットをもたらす

災害対策に5Gを、というアイデアは、あくまで試験段階。そもそも、各携帯キャリアは2020年に5Gのスタートを予定しているものの、都市部、特に三大都市圏でしか当初は利用できない公算が高い。これは、LTEはもちろん、3Gも通ってきた道のりであり、いずれ全国に広がるはずだ。

ただ、商用サービスがスタートしてから数年が経ってようやく全国で利用できる環境、しかも中長期的にLTEと共存していくとみられる5Gありきで、どこまでこうした利活用の方法を模索できるかは難しい側面もあるように思う。

とはいえ黒澤氏は、5Gのその他の活用手法として、遠隔監視システムの高度化による予兆保全などが実現できると話す。例えば、KDDIのドローン基地局に4Kカメラを搭載して、基地局機能を提供しつつ、自衛隊などと協力して山間部における土砂崩れの把握といったことも実現できるはずだ。

5Gは、通信の可用性を大きく広げる存在。各キャリアとも、さまざまな企業と利用用途の想定を模索して実証実験を繰り返しているが、日本人なら誰もが災害と隣り合わせで生きている中で、防災という側面でも同様の取り組みに期待したい。