宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、筑波宇宙センターに設置された閉鎖環境適応訓練設備(以下、閉鎖設備)を用いた共同研究において、閉鎖設備滞在により唾液中のストレスホルモン(コルチゾール)の日内リズムの乱れと、表情のゆがみ度が増すことを発見したと発表した。

  • ストレスホルモンであるコルチゾールの日内リズムの変化

    ストレスホルモンであるコルチゾールの日内リズムの変化(入室前、入室1、4、8、11、13、14日目、退出後のデータ)

  • 表情のゆがみの変化

    表情のゆがみの変化

同研究は、資生堂とJAXAの共同研究によるもので、同研究成果は、第63回宇宙航空環境医学会で発表された。また、3月2日に開催される「第二回国際宇宙探査フォーラム(ISEF2)」サイドイベント「I-ISEF」(ISEF for Industries)にて、ストレスと肌・免疫に関する研究を担当する資生堂の細井純一研究員が登壇し、同研究について紹介する予定となっている。

JAXAは、専門家による精神心理的健康状態評価のための医学的な面接を常時受けられない場合、宇宙飛行士自身が簡易的かつ自律的にストレス状態を評価するためのストレス指標を検討している。その一環として、実験条件を高度に統制でき、被験者の行動を詳細に記録できる閉鎖設備を用い試験を実施しており、一回の試験につき、公募で選ばれた8名の被験者が閉鎖設備に2週間滞在し、入室前と退室後にそれぞれベースラインデータ取得を行っている。ストレスと肌・免疫に関する研究実績を持つ資生堂は、この試験に2016年1月から計3回参加し共同研究を行った。

ストレスホルモンであるコルチゾールには、起床時に増加し夜にかけて減少する日内変動リズムがあることが知られている。過去3回の閉鎖環境滞在試験で、1日4回(朝、昼、午後、夜)唾液を採取した結果、閉鎖設備滞在直後及び退出前日に日内変動リズムが乱れ(昼や午後のコルチゾールの値が高まる)、ストレス負荷度が増したことがわかった。これらの変化は、閉鎖設備退室後には閉鎖設備滞在前の状態に戻ったという。また、表情のゆがみ度を評価する指標として、表情の左右対称性を用いて試験を行ったところ、閉鎖設備滞在中に表情のゆがみ度が増すことがわかった。

今回の結果は、唾液中コルチゾールの乱れ及び表情のゆがみ度がストレス指標となり得ることを示している。簡便に測定可能な手法は、宇宙環境だけではなく広く一般社会でのストレス判定など、日常生活の様々な場面への応用が期待できる。今後は得られた研究成果から、JAXAはISS滞在宇宙飛行士のストレス評価手法の確立へ、資生堂はストレスによる肌・体への影響に対応したトータル美容の開発へつなげていくという。また、資生堂が開発した、笑顔を撮影し数値化することで客観的に分析できる“笑顔アプリ”にストレス測定機能を追加するなど、アプリの開発にも同研究成果が活用される予定だということだ。