オフィスチェア、という単語でググる人は、十中八九からだに爆弾を抱えていると思っている、勝手に。
というのも、よほどの動機が無い限り、大抵「あるモノを使う」ことになるオフィスチェアを、自発的に調べて買おうとすることはないから。そして、筆者もそんな動機を抱えたひとりだ。腰痛で歩けなくなった経験から、再発を防ぐためにいい椅子に座らなくては! と常々思っている。
しかし、なかなか踏ん切りがつかない。ぶっちゃけ高いから…。安くて5万、上を見れば周辺アクセサリ含めて数十万はかかることも。
そうしてうだうだと決断をしないまま月日は過ぎ、オフィスチェアの情報を仕入れるばかりだったなか、最近発売されたコクヨの「ing」の物珍しさが目に留まった。その「体を動かす」という開発思想が、既存のオフィスチェアと真逆を向いているように思えたからだ。
しかし、オフィスチェアは十分試した上で検討したいのが人情というもの。今回はコクヨの広報担当者に頼み込んで、発売直後で引っ張りだこだった「ing」を1週間レンタルすることに成功したため、その所感を書いていきたい。まだデビューしたての製品で購入者の情報が少ないなか、検討の一助となればと思う。
オフィスチェアは「支える」もの
ものすごく単純に言ってしまえば、値段の張る、つまり高性能なオフィスチェアは、体を「サポート」する力が強い。カタカナの格好良い機能名がたくさん並んでいるが、それらは座り通しの腰や背中を支え、筋肉を休めてこわばらないようにするのが目的で搭載されている。
一方、ingは座っている姿勢を「固定」せずに「動かす」ための椅子なのだという。座面にメカが搭載されていて、前後左右にぐるぐると動かせるようになっている。詳細は発表会の記事を読んでほしい。ざっくりと言えば、人の体は動くことを前提にしているため、「ing」に座って動きながらデスクワークをすることで、働きながらにして運動できるのだという。
オフィスで「動く」と感じること
座る時間が長いと健康を損なう、という説は多く語られていて、弊誌では順天堂大学と立命館大学の考案した体操の記事などでその悪影響が語られているが、その他多くの国内外のメディアでも言われている。それなら、仕事中に動いていれば、この不都合を減らした上で仕事もはかどるのでは? と考えた。
だが、やはりオフィスチェアは使ってみてはじめて自分に合うか合わないかが分かるもの。実際のオフィスに持ち込んで、この一風変わったアプローチのチェアを、デスクワークに使ってみたいと思うようになった。
そこでマイナビニュース編集部と相談したり、レンタルの順番を待ったりすること数週間。記事にするためのレビューということで、「ing」を一週間借りられることになった。重度の腰痛体験者として白羽の矢が立ったので、何事も経験だ(二度と同じ目に遭いたくはないが)。
オフィスに届いて荷解きをしたとき、まず思った以上の重量に驚いた。中にメカが入っているからか、元からあったオフィスチェアよりずっしりと重く、編集部の人の手を借りて設置した。
さっそく自分の体の高さに合わせて座ってみたところ、体重を少しかけると簡単に漕ぐことができ、ブランコに乗っているような気分に。
編集A:「そうやって漕いでると、姪っ子が椅子で遊んでたのを思い出して面白い」
編集B:「仕事してる? 」
周囲からの目は少しばかり冷ややかだが、健康には代えられない。ただ、最初の1時間くらいは物珍しさからぐいぐい漕いでしまったのはここだけの話だ。
揺れると幅を取るかもと不安だったが、両隣の編集が面白がるに留めてくれた程度で済んだ。実際、木馬みたいに本体すべてが揺れるのではなく、座面だけが回転するように動くので、「ing」だから広いところに置かないといけない、ということはなかった。
想像と違ったのは、「ing」は思ったより簡単に揺れるというところ。ほんの少し重心を変えただけでもぐっと体が揺れる。意識して動かなくても姿勢が固まらないのは利点と感じたが、立ち上がるとき、座るときは普通の椅子の要領で座ると、思わぬほうに体が倒れそうになったり、思わぬ方向に腰がねじれ、腰痛持ちとしてはヒヤリとする瞬間もあったので、少し注意が必要だ。とはいえ、そもそも勢いよくドスンと座るのは腰にとても悪いので、それに気をつけるきっかけになると思えばかえっていい面もあるかもしれない。
「意識しないで使う」域には届かず
コクヨの担当者からは、送っていただく際に「意識しすぎず、普段どおり使って」とアドバイスを受けた。だが作業の合間、ふとした時に座面が揺れて、「あ、さっきからずっと腰のところに力が入っている」とか、「左側のお尻にばかり体重が乗っていた」とか意識に上ることが多く、そのたびに自分の姿勢に気づかされた。
体の健康維持にはとてもいいことだと思うが、実際、集中したい作業のときにはちょっと水を差されたような気にもなってしまった…。たった一週間の体験だからというのもあるかもしれないが、絶対に集中したい作業のときは、ロックするレバーを使って「ふつうの椅子」状態にして使ったほうが良いのかも? とも思った。それだと「ing」にした意味がなくなるので迷いどころだが…。
オフィスチェアには肘掛けの高さが変えられるものもあるが、「ing」は揺れを支えるという安全面も考慮してか、固定の高さに統一されている。自分にあてがわれた編集部のデスクに高さを合わせられなかったので、腕をサポートする目的は達成できず。ここは別の手段で支えるしかないようだ。
そうしてやっとこのじゃじゃ馬な椅子に慣れはじめたころ、一週間の「ing」体験は終わってしまった。これまでのオフィスチェアとかなり違う挙動をするのでつかみきれなかった部分も多くあり、まとまりのないインプレッションになってしまったことをお詫びしたい。
ざっくりたとえれば、「ing」は「椅子の形をした、転がらないバランスボール」。姿勢の硬直を防ぐ効果は確かに感じたものの、自分の意図せざる方向への動きも多く、これが仕事生活の一部になるまでなじむか、というのは1週間のお試しで判断できなかった。単に旧来の椅子に慣れきった私には早かったのかも…? とも思う。
ともあれ、百聞は一見にしかず。これを読んでちょっと「ing」が気になった人は、コクヨのショールームほか、実際に「ing」を座って体験できる場所に行って、一度体験して、新感覚を味わってみてほしい。
犬飼みけ : 公私共にパソコンとお友達な兼業ライター/デザイナー。2016年に強い腰痛でドクターショッピングを繰り返す。その派手な症状が編集部の目に留まり、本来の仕事以外にルポを書くように依頼され今に至る。ライティング領域はデザイン関連中心、テクノロジーまわりも少々。