東京農工大学(農工大)は、マグマ中に自然に発生する複雑な泡の構造が、火山の爆発的噴火を促すことを明らかにしたと発表した。同成果は将来、災害軽減につながる噴火の予測に役立つことが期待されるという。
同研究は、機械工学を専門とする東京農工大学工学研究院の亀田正治 教授と火山物理学を専門とする東京大学地震研究所の市原美恵 准教授がチームを組み、東京農工大学の丸山祥吾氏、黒川紀章氏、青木ヤマト氏、東北大学理学研究科の奥村聡 准教授、JASRI利用研究促進部門の上杉健太朗 主席研究員と共同で行われた。詳細は米国の学術誌「Scientific Reports」に掲載された。
マグマは流体だが、形の変わり方や力のかかり具合に応じては固体的にも振る舞う。噴火の際、軽石などの粒子として放出されるマグマ噴出物は、岩石が壊れるのと似た現象によって作られる。この現象はマグマの固体的な破砕と呼ばれ、マグマ中のガスの急激な放出をともなう爆発的噴火のきっかけになると考えられている。この破砕は急速な減圧によって引き起こされるというモデルが提唱されており、このモデルは、火口を覆う溶岩ドームの崩壊をきっかけとする爆発的噴火の発生過程をよく説明している。
しかし、理論や実験から必要とされる急減圧の時間スケールと現実の火山現象は異なっていたほか、何時間も連続する大規模な爆発的噴火において、深部から流れてくるマグマの中でなぜそのような破砕が起こるか、という点が未解決の問題となっていた。
研究グループでは今回、3次元X線マイクロトモグラフィーで発泡状態を調べたマグマ模擬材料が減圧により壊れる過程を高速度カメラ撮影によってとらえた。さらに、実験と同じ発泡状態を模擬した試料の内部に働く力を数値シミュレーションにより調べたところ、気泡が不均質に存在すること、またそのサイズが不均一であることが、流体であるマグマが脆性的に破砕される本質的な原因であることを示した。
特に、大きな気泡の近くに小さな気泡が存在すると、小さな気泡の周りに力が集中し、そのことがきっかけで、亀裂が進展しやすくなる、という点が重要なポイントだ。このような気泡構造は、大量の軽石・火山灰を放出する大規模な爆発的噴火の噴出物に特徴的に見られるもので、発生条件の理論予測が進んでいる。気泡構造と破砕の起こりやすさを関連付けた今回の発見は、連続的な爆発的噴火を説明する新しい噴火のシナリオを導くと研究グループでは説明している。
今回の成果を受けて研究グループは、今後の展開について、実際の噴火による噴出物(火砕堆積物)から測定可能な情報との関連付けが進めば、同研究での提案する破砕シナリオの正当性が確かめられ、災害の低減につながる噴火の予測に役立つことが期待されるとしている。また、同現象は、「粘弾性流体の破壊」という連続体物理学で注目を集めている現象と密接に関連しており、適切な数理モデルの構築や、それに基づく数値シミュレーション手法の確立などの波及効果も期待されるとコメントしている。