北海道大学は、同大大学院生の寺尾勘太氏と水波誠教授の研究グループが、「コオロギの罰に関する学習は予測誤差理論で説明できるが、他の対抗理論では説明できない」ことを明らかにしたことを発表した。

これにより、コオロギが学習するには 「驚き」が必要であるうえ、コオロギではドーパミンを伝達物質とするニューロンが罰に関する予測誤差を伝えることが示唆された。この成果は10月31日、国際科学誌「Scientific Reports」オンライン版に掲載された。

匂いを探索するフタホシコオロギ。今回の研究で、コオロギの罰に関する学習が予測誤差理論で説明できることがわかった(出所:北大ニュースリリース)

ヒトを含む哺乳類の連合学習は、予想していなかったことが起きたときに学習し、予想どおりのことが起こった場合には学習しないという、「予測誤差」に基づく理論が提案されている。連合学習は、刺激を「報酬(美味しい食べ物など)」と結びつける学習と、「罰(嫌な味の食べ物など)」 と結びつける学習のふたつに大別される。

報酬に関する学習にはこの予測誤差理論が当てはまり、哺乳類では神経伝達物質であるドーパミンを含むニューロン(神経細胞)が、予測誤差の情報を伝達することが知られていた。しかし、罰に関する学習にこの理論が適用できるかは明らかにされていなかった。

コオロギは高い学習能力を持ち、例えばフタホシコオロギは匂いを嗅がせた直後に罰(塩水)を与える訓練を2回行っただけで、その匂いを避けることを学習する。研究グループは、このフタホシコオロギの匂いと罰の連合学習が、予測誤差に基づいて起こるのかについて調べた。

研究方法として「ブロッキング」と呼ばれる従来の学習手続きと、寺尾氏らが考案した「オートブロッキング」という学習手続きを用いた。その結果、コオロギの学習は予測誤差理論で説明できるが、選択的注意説などの対抗理論では説明できないことが明らかとなった。コオロギは予想外の出来事に直面し「驚いた」ときに学習し、さらにオートブロッキングの実験により、コオロギの脳ではドーパミンを伝達物質とするニューロンが、罰について予測誤差の情報を伝えていることが示唆された。この結果から、哺乳類と昆虫の間には、ドーパミンが予測誤差の情報を伝達するという点で共通性があることが示唆された。

この研究で、予測誤差理論が報酬だけでなく罰に関する学習にも当てはまることが明らかになった。今後、コオロギの脳におけるドーパミンニューロンの神経活動を解析することで、予測誤差を計算する脳のしくみの解明が期待できる。その成果は、ヒトの脳における予測誤差の計算のしくみの理解にもヒントを与えるものと期待される。