理化学研究所(理研)は、マウスに対して複雑な認知課題を自動的に訓練するための標準的なシステムを開発したことを発表した。
同成果は、理研 脳科学総合研究センター行動・神経回路研究チームのアンドレア・ベヌッチ チームリーダー、青木亮 研究員、坪田匡史 基礎科学特別研究員らによるもの。詳細は、英国の科学雑誌「Nature Communications」(オンライン版)に掲載された。
神経細胞の活動と注意や意思決定などの認知機能と因果関係を調査することは、正常な認知機能や行動、および病気のメカニズムを理解するうえで重要なものとなる。こうした研究においては従来、マカクサルなどの霊長類が用いられていたが、近年、遺伝子改変技術が充実しているマウスがモデル動物として注目されている。
しかし、マウスに対する認知課題の訓練には数か月を要する上、数十匹を並行して訓練しようとすると、多くの労力を要する。また、訓練手法や得られたデータなどの共有が難しいという問題があった。
今回、研究チームは、マウスの行動訓練自動化のための実験装置を開発した。同装置は、マウスのホームケージとつながり、1日に2回~3回、自発的に接続部を通って先端部に移動し、そこで訓練を行う。正しい行動に応じて報酬が与えられることで、学習が進行する。
装置は完全に自動化されているため、実験者はその場にいる必要がない。実際に、視覚弁別課題を12匹のマウスで並行して訓練したところ、8週間以内にマウスが微小な角度の違いを75% の正答率で識別できるようになった。また、装置を用いた行動に制御下での神経細胞の活動を2光子顕微鏡で観察することにも成功し、1つの装置による行動および神経活動データ取得の標準化が可能であることが示された。
理研は同成果に関して、「今後、同装置は実験者間や研究室間でのデータ共有を促進し、正常時および病理下での認知機能を支える神経基盤の理解に貢献するものと期待できる」と説明している。