新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、山梨大学の宮武健治教授、三宅純平助教らの研究グループが、固体高分子形燃料電池向けの高性能な非フッ素系電解質膜の開発に成功したことを発表した。この成果は10月25日、米国科学振興協会(AAAS)が発行するScience姉妹誌「Science Advances」のオンライン版に掲載された。
近年、高エネルギー変換効率、低公害の発電装置である「燃料電池」は、エネルギーや環境問題解決の観点から注目を集めており、固体高分子形燃料電池(PEFC)は家庭用燃料電池(エネファーム)やFCVとして実用化された。
PEFCで用いられる電解質膜は、主にフッ素系電解質膜が広く利用されているが、供給ガス透過性、環境適合性、コストなどが課題となっている。一方で、これらの課題を克服できる新たな電解質膜として、構成元素にフッ素を含まない炭化水素系電解質膜の可能性が検討されてきたが、成膜性、化学耐久性、機械特性(特に柔軟性)に課題があることから、これまで燃料電池への応用は困難だと考えられてきた。
このたび、NEDO事業において、山梨大学の研究グループが高性能な非フッ素系電解質膜の開発に成功した。研究グループは、極めて耐久性に優れる炭化水素系高分子であるポリフェニレン構造に着目し、分子レベルで組成比を最適化することにより新たなポリフェニレン電解質(SPP-QP)を合成し、これが透明で柔軟な薄膜を形成し化学耐久性にも優れることを見いだした。
化学耐久性はフェントン試験を実施し、従来開発していた炭化水素系電解質膜と比較して、酸化に対して非常に安定であることを示すとともに、SPP-QP電解質膜を燃料電池に搭載した場合の初期発電特性が、現行のフッ素系電解質膜と比較して同等であることが確認された。
この成果により、PEFCの作動条件下でも高い性能を発揮できる非フッ素系電解質膜の分子設計指針が見いだされた。NEDOは今後、この設計指針をさらに発展させていくことで、2025年以降のFCVの本格普及期に求められる、燃料電池用電解質膜の分子設計指針の確立に大きく貢献することが期待されるとしている。