スペインのアンダルシア天体物理学研究所(Instituto de Astrofisica de Andalucia:IAA)は2017年10月11日(現地時間)、海王星のさらに外側を回る太陽系外縁の準惑星「ハウメア」(Haumea)を観測した結果、大きさや形状などが正確に判明し、さらに環があることも発見したと発表した。

観測を行ったのはアンダルシア天体物理学研究所のホセ・ルイス・オルティス(Jose Luis Ortiz)氏を中心とする欧州の研究チーム。論文は12日付の英科学誌「Nature」に掲載された。

海王星よりも外側の太陽系外縁天体で環が発見されたのはこれが初めてで、太陽系に他にも環をもつ天体がある可能性や、他の惑星系でも環が一般的なものである可能性があるという期待が広がっている。

ハウメアとその環の想像図 (C) IAA-CSIC/UHU

準惑星「ハウメア」

オルティス氏らの研究チームは今年1月21日、地球から見てハウメアが恒星の手前を通過するタイミングに合わせ、欧州各地の10か所の天文台にある合計12台の望遠鏡を使い、掩蔽観測を行った。

掩蔽観測というのは、恒星の前を天体が横切ったときに、恒星から届く光を観測する方法のことで、その光の変化を分析することにより、横切った天体の大きさや形状、密度などを見積もることができる。

ハウメアは海王星よりも外側にある太陽系外縁天体のひとつで、ハウメアという名前はハワイ神話に登場する、安産と大地を司る女神に由来している。発見されたのは2003年のことで、当時は小惑星に分類されていたが、その後2006年に惑星の定義が変わったことを受け、2008年に「準惑星」に再分類されている。また太陽系外縁天体(TNO)に属する準惑星として、冥王星などと同じ「冥王星型天体」にも分類されている。

ハウメアは太陽から約19億km離れた楕円軌道を公転し、周期は約284年。自転周期は約3.9時間と、太陽系にある直径100km以上の既知の天体のなかで最も早い。そして2つの小さな衛星「ヒイアカ」(Hi'iaka)、「ナマカ」(Namaka)をもっていることがわかっていた。しかし、それ以外は多くのことがわかっていないか、もしくは不正確なことしかわかっておらず、この機会に詳細な観測ができると期待されていた。

そして観測の結果、大きさや形状、密度をこれまでより正確に見積もることに成功。たとえば形状ははラグビー・ボールのような楕円体をしており、最大直径は2320kmで、これは冥王星の直径に近い。また、密度は地球と同じくらい高く、さらに通過時の光の落ち込みが急激だったことから、冥王星のような大気がないことを示しているという(大気があれば光の落ち込みはゆるやかになる)。

また今回の観測結果は、他の冥王星型天体である冥王星やエリス、マケマケの研究にも役立つという。

太陽系外縁天体で初めて見つかった環

さらに研究者らを驚かせたのは、光の量の変化を測定したところ、ハウメアの周囲に環があるという結果が得られたことだった。

研究チームによると、この環は天王星や海王星の環に似ており、凍った粒子によって構成されているという。環はヒイアカの衛星軌道と同じようにハウメアの赤道面にあり、半径は2287km、つまりハウメアの上空約1000kmに、幅70kmで広がっていると見積もられている。またハウメアの自転に対して3:1で共鳴しており、すなわちハウメアの自転より3倍遅い速さで、ハウメアの周囲を回っているいう。

これまで太陽系内では、環をもつ天体は6つが発見されている。有名なのは土星、木星、天王星、海王星といった惑星だが、2014年には小惑星「カリクロー(Chariklo)」、2015年には小惑星「キロン(Chiron)」でも環が発見されている。

ハウメアはこの6つの天体よりも太陽から遠く、太陽系の最も外側にある。海王星よりも外側の太陽系外縁天体で環が発見されたのは今回が初めてである。さらに惑星や、カリクローやキロンのような、木星軌道と海王星軌道の間を公転する「ケンタウルス族」と呼ばれる天体でもない、準惑星に環があるのが見つかったのも初めてのことである。

ハウメアとその環の想像図 (C) IAA-CSIC/UHU

では、この環はどのようにしてできたのだろうか。研究チームを率いるオルティス氏は「環の形成についてはさまざまな説明が考えられます。たとえば別の天体との衝突や、ハウメアの速い自転速度によって表面が拡散して生まれたといった可能性があるでしょう」と語る。

ちなみにヒイアカとナマカの2つの衛星も、ハウメアに別の天体が衝突した結果生まれたと考えられているため、その残りの破片が環を形成したという考えは自然なものである。またハウメアが他の天体にあまりないラグビー・ボールのような形状と自転速度をもっていることも、環が生まれた謎を解く手がかりになるかもしれない。

さらにオルティス氏は、太陽系外縁天体で初めて環を発見したことについて、「これは環という存在が、以前考えられていたよりも、太陽系や他の惑星系においてより一般的なものである可能性があることを示しています」とも語っている。

ただ、人類は他の惑星系はもちろん、太陽系もまだ十分に探索できておらず、とくに海王星よりも遠くについてはわかっていないことが多い。太陽系を含む宇宙全体に、環をもつ天体がどれくらいあるのかは、まだ誰にもわからず、これからの探査が待たれる。

とくに、2015年に冥王星を探査した探査機「ニュー・ホライゾンズ」は、現在次の目的地であるエッジワース・カイパーベルト天体の「2014 MU69」に向けて飛行を続けている。いまのところ2014 MU69の姿かたちなど、詳しいことはほとんどわかっていないが、もし環が一般的なものであるなら、もしかしたら2014 MU69にも環があり、ニュー・ホライゾンズによって観測できるかもしれない。

ニュー・ホライゾンズと2014 MU69の(現時点での)想像図 (C) NASA/JHUAPL/SwRI/Alex Parker

参考

Haumea, the most peculiar of Pluto companions, has a ring around it | IAA - CSIC
A ring far beyond Pluto : Research Highlights
Planetary Society-funded telescopes help find ring around Haumea, a distant dwarf planet | The Planetary Society
The size, shape, density and ring of the dwarf planet Haumea from a stellar occultation : Nature : Nature Research
Haumea - In Depth | Planets - NASA Solar System Exploration

著者プロフィール

鳥嶋真也(とりしま・しんや)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュースや論考の執筆、新聞やテレビ、ラジオでの解説などを行なっている。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)など。

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