近頃、人工知能(AI)を取り入れようとする企業が増えている一方、AIを活用するための人材が不足していると言われている。世界を見てもAIを使いこなせる人材は希少であり、国内に限るとほんの一握りしかいないだろう。そんな現状を救うべく、DIVE INTO CODEは、世界で即戦力になりうるAIエンジニアを育成している。今回、同社で教育責任者を務める中尾亮洋氏に、同社のAI人材の育成について話を聞いた。

DIVE INTO CODE 教育責任者 中尾亮洋氏

「お金も環境もない」AIの教育環境で世界に遅れをとる日本

中尾氏はもともと汎用AI開発に携わっていたが、「日本は、AI人材を育成するための予算もなければ、環境もない」と、日本のAI人材育成の窮状を訴える。

こうした日本に比べ、米国では、GoogleやFacebookといった海外のITベンダーのAI関連の研究の成果が日々報道されているように、AIを学ぶための環境が整備されているという。例えば、米国では、GoogleのエンジニアがオンラインでAIについて教えてくれるそうだ。

また、中尾氏はAI関連の人材を育成する画期的な試みとして、データサイエンストが集うWebサイト「Kaggle」を挙げる。Kaggleでは、企業が懸賞金をかけて課題を投稿し、その課題解決に向けて競うコンテストが実施されている。「コンテストで出題される問題は難しく、予測精度を競います」と中尾氏。

これまで、MicrosoftやFacebookなど、大手の企業が課題を出しているが、最近は、AI人材の採用を目的にコンテストを実施している企業も多いそうだ。

つまり、Kaggleにおいて、企業は自社の課題を解決しつつ、優秀な人材を確保することが可能になり、エンジニアは自分の能力を高く買ってくれる企業で職を得るということができるわけだ。

世界ではAIを巡ってこんな動きが見られるなか、中尾氏は「日本でも、AIに携わる人を増やしていきたい」と意気込みを語る。

1000時間のトレーニングで世界に通用するAI人材を

一般に、IT系のトレーニングというと、数日間、長くても1週間といったものが多いが、DIVE INTO CODEの「エキスパートコース」は1年間にわたり1000時間かけてAIをじっくり学ぶ。これを聞いただけでも、AIに関する知識・技術が身につきそうだ。

中尾氏は、ここまで徹底したトレーニングを行う背景には、「プレイヤーになるまでに育てることを意識していることがある」と話す。

同コースの生徒は毎月5人募集しており、エンジニアから大学生までさまざまな人が受講しているそうだ。講師は、大学のAI研究室に属している研究者の方など8人そろっている。

AIの人材が不足しているように、AIを教えることができる人材も当然、不足している。同社のトレーニングは今年3月にスタートしたのだが、既に数カ月先まで予約でいっぱいだそうだ。

同コースは3つのフェーズに分けて、「コンピューターサイエンス基礎(Python、アルゴリズムデータ構造等)」「データサイエンス基礎(統計学、データラングリングなど)」「機械学習(教師あり、教師なし学習など)」「深層学習(CNN RNN TensorFlowなど)」「自然言語処理」「画像認識」「音声認識」などを学ぶ。最終のPHESE3では、作成した自身のプロダクトを発表する。

AIをやるならPythonが常識!?

ここで、1つ注目すべきは、同コースはPythonをベースとしている点だ。公式サイトでも、「1000時間の学習をやり遂げるためコースが始まるまでに任意の教材でPythonの基礎知識を得ることをオススメする」と記載されている。

Pythonエンジニア育成推進協会 代表理事を務める吉政忠志氏は、「基本的にAIをやるならPythonという風潮があります。 Pythonはデータ分析に向いている言語と言われているが、ビッグデータの先にはAIがあります。Pythonのツールを使いながら、機械学習に入っていきます」と話す。

Pythonエンジニア育成推進協会 代表理事 吉政忠志氏

ディップが運営するAIの専門メディア「AINOWと」が2016年11月に公開した調査結果によると、AI市場の求人数はPythonが第1位を獲得している。

AI人材に求めるプログラミング言語 資料:ディップ

なお、中尾氏は、DIVE INTO CODEの活動には「学んで終わりではなく、エコサイクルとコミュニティがある」と強調する。卒業生に対し、就職先の紹介、コミュニティ形成の場、 学習の機会などを提供しているのだ。

AI人材が不足している今、育った人材が今度は育成に関わることでさらにAI人材が増えていき、日本のAI人材のパワーが大きくなっていく。資源を持たない日本にとって、知財は大きな資産と言える。

AIは今後、日本企業が事業を拡大していくための武器、日本のエンジニアが世界で戦うための武器となっていくだろう。DIVE INTO CODEの活動が拡大することで、日本のAI人材の市場が広がっていくことを期待したい。