東京医科歯科大学(TMDU)は、ニューロンの細胞分裂を防ぐブレーキの仕組みを発見し、このブレーキを解除する低分子化合物を同定、および脳梗塞モデルニューロンの細胞分裂に成功したと発表した。

同成果は、東京医科歯科大学統合研究機構脳統合機能研究センターの味岡逸樹 准教授と押川未央 特任助教、岡田桂 研究支援者の研究グループと、愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所との共同によるもの。詳細は英国の学術誌「Development」オンライン版に掲載された。

細胞には増える細胞と増えない細胞があり、増えない細胞の代表例としてニューロンがよく例に挙げられる。脳の代表的な病気である脳梗塞やアルツハイマー病などの神経変性疾患は、ニューロンが脱落する疾患だが、脱落を免れたニューロンも増えず、進行的に脱落するため治療が難しい病気だ。ニューロンが増えない細胞であるという事実は有名だが、その仕組みについては明らかになっていなかった。

細胞が増えるということは、DNAが複製され、それを分配する細胞分裂が繰り返されることを意味する。この一連の過程は細胞周期と呼ばれ、DNA複製をするS期、細胞分裂をするM期、このS期とM期の間にG1期とG2期が存在する。ニューロンは、細胞分裂を繰り返す神経前駆細胞から主に胎児期において生み出され、分化開始とほぼ同時に別の細胞周期であるG0期に入ると考えられていた。

同研究グループは、これまでの研究から、S期進行のブレーキとして機能するRbファミリータンパク質を欠損させると一部のニューロンが増えること、および、このタンパク質を欠損する時期が、ニューロンが増えるか否か決定づけることを発見。これらから、ニューロンが潜在的な増殖能力を秘めていることを明らかにしていた。

ニューロンと細胞周期(出所:東京医科歯科大学Webサイト)

一方で、過去のさまざまな研究により、脳梗塞やアルツハイマー病で観察されるニューロン脱落の一部は、Rbのリン酸化に続き、細胞周期をS期へと進めてから細胞死を起こすということも知られていた。

今回の研究では、S期進行後にニューロンの細胞死を誘導するRbファミリー欠損モデルを確立し、そのモデルを用いてM期進行のブレーキの仕組みを明らかにした。また、そのブレーキを解除する低分子化合物カンプトテシンを同定した。さらに、S期進行後にニューロンが脱落する脳梗塞モデルにおいて、カンプトテシン投与で細胞分裂させることに成功したとしている。

脳梗塞モデルニューロンの細胞分裂(出所:東京医科歯科大学Webサイト)

今回の成果を受けて研究グループは、脳梗塞ニューロンの脱落を防ぎ、細胞分裂させるという方法は脳再生医療に結びつく可能性があるが、脳に悪い影響を与える可能性やがん化の可能性も否定できないとしている。また、今後、脳梗塞後に分裂したニューロンの機能を検討し、脳再生医療に展開できるかどうか検証するとコメントしている。