劣化したペロブスカイト太陽電池に光を照射することによってデバイス性能が回復するという報告を、ケンブリッジ大学、マサチューセッツ工科大学(MIT)、オックスフォード大学、デルフト工科大学からなる国際研究チームが行った。次世代太陽電池として期待されているペロブスカイト太陽電池の耐久性能を向上できる可能性がある。研究論文はセル出版の発行する雑誌「Joule」に掲載された。

ペロブスカイト太陽電池の結晶構造(出所:ケンブリッジ大学)

2016年に発表された先行研究では、ペロブスカイト太陽電池に光を照射することによって電荷の運び役であるヨウ化物イオンが光照射領域から移動していなくなり、この過程で同領域中のほとんどの欠陥が除去されるという効果が報告されていた。しかし、光の照射を止めるとヨウ化物イオンがもとの位置に戻ってくるため、欠陥除去効果は一時的なものに過ぎないとされた。

今回の研究では、ペロブスカイト太陽電池をロールtoロール方式の印刷プロセスで作製し、プロセスの途中で光と酸素と湿気にさらすという実験を行った。そして光照射を行った後で、中断したプロセスを再開して残りの層を形成し、デバイスを完成させた。

通常、ペロブスカイトは湿気にさらされた途端に劣化が始まるとされる。このため太陽電池が設置される屋外環境などでは、デバイスが急激に劣化してしまい、変換効率が落ちることがペロブスカイト太陽電池の問題になっている。しかし、今回の実験では、湿度のレベルが40~50%の間であって、かつ光の照射を30分間に限った場合には劣化が起こらないという結果が示された。

この効果は、光照射を止めた後のデバイスでも永続する。適切な湿度のもとでの光照射によって、デバイスの劣化が止まる仕組みについて、研究チームは次のように説明している。

ペロブスカイトに光が照射されると、電子と酸素が結合して超酸化物(スーパーオキシド)が形成される。この超酸化物には、デバイス中の結晶欠陥と非常によく結びつく性質がある。結晶欠陥は通常、電子をトラップしてしまい、太陽電池から取り出せる電気エネルギーの量を減らす原因となるが、今回の場合は超酸化物が先に欠陥と結びつくことで、電子がトラップされずに済むようになったと考えられる。

また、水分の存在によって、ペロブスカイト表面が保護殻に変わるという効果もある。保護殻の働きによって、デバイス表面にある欠陥は超酸化物中に閉じ込められて除去される。このため、適切な湿度条件のもとでは、光照射によるデバイス性能の回復効果が長続きするようになると説明されている。

論文によると、湿度条件を調節して光照射処理を行った多結晶ペロブスカイト薄膜において、内部量子効率が1%から89%に向上し、キャリアライフタイム32μ秒、拡散長77μm、セル変換効率19.2%といった性能が得られたという。単結晶ペロブスカイト薄膜に匹敵する性能を多結晶で得られたことになる。