東芝と東芝欧州研究所傘下のケンブリッジ研究所は9月15日、10Mbpsを超える鍵配信速度を実現する量子暗号装置の開発に成功したと発表した。10kmを想定した光ファイバー環境における、同装置の性能測定において、同社の従来の最高速度(同社調べ。35kmの距離で1.9Mbpsを達成)の約7倍となる13.7Mbpsの鍵配信速度を達成した。

量子暗号通信では、光の粒子である「光子」1個に1ビットのデータを載せて送受信する。光子は盗聴があると光子の状態が変化し、確実に盗聴を検知することが可能なため、安全性が保証される。そのため、機密データのバックアップや医療データ伝送といった秘匿性の高いデータの通信に適しており、実用化に向けて通信速度の向上が求められているが、これには、暗号鍵の生成処理速度が課題となっていた。

高速量子暗号装置(送信機)

暗号鍵の生成処理は、伝送中や受信時の雑音により発生するデータの誤りの訂正処理などを行い、最終的に送受信者間で共通の暗号鍵を生成するためのもの。同社は今回の開発で、従来のソフトウェア処理をより高速に処理できる専用回路を用いたハードウェアや、光子通信の誤り特性を加味した処理規模の少ない誤り訂正方式を開発するとともに、従来のデータ変換処理の多並列処理化を達成し、鍵生成処理の高速化を実現した。

同社はこれまでも、2010年に50kmの距離において1Mbpsの鍵配信速度を実現するなど、世界最高クラスの性能を達成した量子暗号装置を開発してきており、今後も高速化などの研究開発を進めることで、金融・医療・通信インフラといった分野での実用化を目指し、量子暗号技術の普及に貢献していくとしている。なお、同技術の詳細は、9月18日から22日に英国ケンブリッジで開催される国際会議「QCrypt 2017」において発表される予定である。