慶應義塾大学(慶大)は9月5日、アルマ望遠鏡を使って天の川銀河の中心部分に発見された特異分子雲CO-0.40-0.22の詳細な電波観測を行った結果について発表した。
同成果は、慶應義塾大学理工学部物理学科 岡朋治教授らの研究グループによるもので、9月4日付けの英国科学誌「Nature Astronomy」に掲載された。
特異分子雲CO-0.40-0.2は、天の川銀河中心核「いて座 A*」から約200光年離れた位置にあり、その異常に広い速度幅から内部に太陽の10万倍の質量をもつブラックホールが潜んでいる可能性が指摘されていた。
今回、同研究グループは、アルマ望遠鏡を使用し、一酸化炭素分子およびシアン化水素分子が放つスペクトル線と当該周波数230/265GHz帯の連続波放射について特異分子雲CO-0.40-0.22の観測を行った。
この結果、特異分子雲CO-0.40-0.22 の中心付近に、1.5光年程度の大きさをもつコンパクトな高密度分子雲と、それに隣接する点状の連続波電波源CO-0.40-0.22*を検出。検出されたコンパクトな高密度分子雲は、毎秒100kmを超える速度幅があり、点状電波源CO-0.40-0.22*の位置に近づくにしたがって急激に大きな速度を持つ。一方で、点状電波源CO-0.40-0.22*は、いて座 A*の1/500の明るさを持ち、プラズマまたは星間塵からの熱的放射とは明らかに異なるスペクトルを示していた。
そこで同研究グループは、特異分子雲CO-0.40-0.22内におけるガスの分布・運動の再現を試みるため、詳細な重力多体シミュレーションを行った。点状電波源CO-0.40-0.22*の位置に10万太陽質量の点状重力源を置き、約30光年離れた位置から雲を模した多数の粒子を投入したところ、CO-0.40-0.22*の近くを通り過ぎた直後の粒子の分布・運動が観測で得られたガスの分布・運動を非常に良く再現できることを見出した。
これは、CO-0.40-0.22*が太陽の10万倍もの質量をもつ未知の天体で説明できることを意味しており、特異分子雲CO-0.40-0.22中に存在が示唆されていたブラックホール本体であることが考えられるという。
同研究グループは今回の成果について、天の川銀河の中において中質量ブラックホール候補天体の実体を捉えた初めての例であるとしている。