NECは8月9日、同社の府中事業場において、今年度の打ち上げを予定している地球観測衛星「ASNARO-2」をプレスに公開した。合成開口レーダー(SAR)を使い、地表の様子を撮影する小型衛星で、経済産業省の支援を受け、同社が開発した。イプシロン3号機に搭載され、内之浦宇宙空間観測所から打ち上げられる予定だ。

公開された小型レーダー衛星「ASNARO-2」

こちらは模型。軌道上ではこのような姿になる

レーダー衛星は、電波を地表に飛ばし、反射して戻ってきた信号を計測することで、地表の様子を調べる。望遠鏡で観測する光学衛星に比べ、一般的に分解能では劣るものの、雲があっても観測できるし、夜間でもまったく問題が無い。それぞれにメリットがあるため、併用されることが多い。2014年11月に打ち上げた兄弟機「ASNARO-1」は光学衛星だった。

この日公開された衛星は、レーダーのアンテナを畳んだ状態。この姿でロケットのフェアリング内に格納され、軌道上でロケットから分離したあと、アンテナを展開する。展開時の幅は4m程度。小型ながら性能が高く、分解能1mでの観測が可能だ。重量は、燃料無しで約540kg、燃料込みで約580kg。設計寿命は5年となる。

ASNARO-2には、「スポットライトモード」「ストリップマップモード」「スキャンSARモード」という3つの観測モードを搭載する。スポットライトモードでは、地上の1点を観測し続けるように、衛星の姿勢を回転。観測エリアは狭いものの、高い分解能(1m)での撮影が可能なため、都市部の建造物の観測などに適している。

ストリップマップモードでは、アンテナの向きを固定して、帯状に観測する。観測幅は12km以上で、分解能は2m以下。用途としては、自然災害監視、資源探査などが考えられている。またスキャンSARモードは衛星の姿勢を横方向にも振ることで、観測幅を50km以上にまで広げることができる。このときの分解能は16m以下。

このように見えるはず、というシミュレーション画像。噴火や土砂災害など、自然災害の情報収集にも有効だ

経産省のASNAROプログラムは、産業競争力の強化を目的としている。そのキーとなる技術が、標準衛星バス「NEXTAR」だ。

衛星バスは、姿勢・軌道制御、電源、通信など、衛星の基本的な機能を集めたプラットフォーム。これを標準化し、さまざまな衛星で使えるようにしておけば、新たにミッション部分だけを開発すれば良く、衛星を早く・安く作れるようになる。商業衛星では不可欠なもので、多くの衛星メーカーがさまざまな標準衛星バスをラインアップしている。

NECの標準衛星バス「NEXTAR」

NEXTARは、500kg級の小型衛星向けに特化した標準衛星バスである。機器間のデータ通信には標準ネットワーク「SpaceWire」を採用しており、LANにプリンタを追加するような感覚で機器の追加が可能。標準衛星バスながら、カスタマイズ性の高さも備えるのがNEXTARの大きな特徴だという。

NEXTARバスを初めて採用した衛星がASNARO-1だった。NEXTARの性能や信頼性を軌道上実証する役目もあったわけだが、打ち上げから約3年となる現在、衛星は正常に運用中だという。またASNARO-2でもNEXTARが採用されており、衛星バスはASNARO-1とほぼ同じ。短期間のインテグレーションで衛星を作ることができたそうだ。

この部分が衛星バス。この上にミッション部が乗っている形になる

ASNARO-1/2でNEXTARバスを実証し、同社は小型衛星の海外展開に弾みを付ける考え。記者会見に出席した経済産業省(経産省)の靏田将範・宇宙産業室長は、「新興国を中心に小型衛星の需要が高まっている」と指摘。「企業と連携し、人材育成やファイナンスなどをパッケージしながら、海外展開を進めていきたい」と、同社の取り組みを後押しする姿勢を示した。

経産省の靏田将範・宇宙産業室長

同時にNECは、ASNARO-2で新しい事業領域への進出も図る。従来、同社が行っていたのは、衛星を製造し、顧客に納入するところまで。つまり衛星の製造メーカーだったわけだ。しかしASNARO-2では、さらに衛星を自社で運用し、撮影した画像の販売まで行う計画。機器産業から、利用産業に一歩踏み出す。

ASNARO-2の運用イメージ。直接、顧客からの注文を受ける体制に

事業領域を利用産業まで拡大。メーカーからの脱皮を目指す

同社の安達昌紀・主席主幹は、「NECは、ICT技術と宇宙技術、この2つのアセット(資産)を持つ世界有数の企業」と自社の特徴を強調。今後、画像認識や人工知能などの技術を応用するなどして観測データの利活用を進め、「グローバルに宇宙ソリューションを提供する企業を目指したい」と意気込んだ。

同社の安達昌紀・主席主幹