広島大学は、同大学大学院工学研究科の田川浩教授の研究グループが、テンションロッドを用いた変位制御型ブレースを設置した20階建て鋼構造骨組の巨大地震時挙動を数値シミュレーションにより分析し、一般のブレース耐震補強時に見られる問題点を克服しつつ、効果的に大変形を抑止できることを明らかにしたことを発表した。この成果は学術誌「The structural design of tall and special buildings」に採用され、8月11日に「Wiley Online Library」にオンライン掲載された。

変位制御型テンションロッドブレースの載荷実験- 右方向の水平荷重に低工事の変形状態(出所:ニュースリリース※PDF)

近年、設計時の想定を大きく超える地震動が観測されており、高層ビルに大変形が生じることの社会的影響は大きく、効果的な補強方法の構築が喫緊の課題となっている。構造物の横力に対する強度を持たせるためにブレースを設置する場合があるが、柱などの既存架構に及ぼす影響を検討する必要がある。

研究グループは既存架構に及ぼす影響を軽減しつつ大変形を抑止できる「変位制御型ブレース」(水平力が作用し、層間変形が指定した量に達した時点で作用するブレース)の高層ビルへの適用性を検討している。

その結果、変位制御型ブレースを用いて補強した20階建て鋼構造骨組が巨大地震を受けるときの挙動をシミュレーションし、柱に作用する付加軸力を低減できることや応答加速度や残留変形を低減できることなど、過大な変形を効果的に抑止できることを明らかにした。加えて、ブレース作用を遅らせ、巨大地震時にもブレースが概ね弾性を維持することが、局所層の変形増大を効果的に抑止できる一因であることを明らかにした。

なお、変位制御型ブレースは、テンションロッドという比較的安価な部材を用いており、都市部に林立している高層ビルの耐震補強促進につながることが期待される。同ブレースの挙動特性は、多数の骨組モデルに対し複数の地震動を用いた地震応答解析により検討したものであり、得られたデータは同ブレースを適用していく上での有用な資料となる。

今後は、オイルダンパーなどの制振装置と変位制御型ブレースを併用することで、変形量をより小さいレベルにまで低減する補強法を検討するということだ。同研究では20階建の平面骨組を用いて分析しているが、高さが異なる骨組や立体骨組に適用した場合の挙動特性、補強効果など、さまざまな構造形式への応用が期待されると説明している。