マンチェスター大学の研究チームは、ペロブスカイト太陽電池の正孔輸送層にポリスチレン微粒子を加えることによって、太陽電池の低コスト化と安定性向上が図れるとする研究を発表した。論文は英国王立化学会の雑誌「Nanoscale」に掲載された。
ぺロブスカイト太陽電池は近年シリコン太陽電池に匹敵する変換効率が次々と報告されるようになり、次世代の太陽電池として注目を集めているが、実用化の上で課題となっているのが屋外など実環境で使用する際の耐久性である。劣化速度が速く、使っていくうちに変換効率の低下が急速に進むと報告されている。
ペロブスカイト太陽電池の劣化原因についてはさまざまな研究が行われており、まず第1に、光吸収層に使われる有機金属ハロゲン化物ペロブスカイト材料が水分に曝されることで容易に劣化するという問題がある。
第2は、正孔輸送層に使われている高分子材料(有機半導体ポリマー)の長期安定性が不足しているという問題である。正孔輸送層は、光吸収層で生成された電流を効率よく外部に取り出すための役割を担う。
また、正孔輸送層で使用される高分子材料は、長期安定性の問題に加えて部材コストが相対的に高く、ペロブスカイト太陽電池全体の中でかなりのコストを占めていることも課題となっている。
研究チームは今回、正孔輸送層の安定性向上と低コスト化を同時に実現する方法として、通常使われる高分子材料にポリスチレンのマイクロゲル粒子を混ぜる技術を提案している。ポリスチレンは正孔輸送層に使われる高分子材料の1万分の1程度のコストで製造できる安価な材料であるが、疎水性であり、これを混ぜることで正孔輸送層の安定性を高めることができるという。
論文によると、正孔輸送層の高分子材料としてポリトリアリルアミン(PTTA)またはポリ(3-ヘキシルチオフェン)(P3HT)を使用した場合、ポリスチレン微粒子を混ぜることによってPTTAまたはP3HTの含有量を元の35%に減らしても、ペロブスカイト太陽電池の変換効率が2割程度しか下がらなかったと報告されている。PTTA/P3HTとポリスチレン微粒子の複合材料とすることによって正孔輸送層の耐久性も向上するとしている。
一方、高分子材料としてSpiro-MeOTADを使用した場合には、ポリスチレン微粒子との複合化によって材料中にマイクロクラックが生じたと報告されている。これは、Spiro-MeOTADの分子サイズが相対的に小さいため、ポリスチレン微粒子とSpiro-MeOTADがうまくかみ合わないためであると考えられるという。