岡山大学は7月28日、ヒトの乳がんに由来する細胞株を培養した液体の上清を用いて、マウスのiPS細胞を培養し、iPS細胞をがん幹細胞へ誘導。がん幹細胞が、がん組織の主体となる「がん関連線維芽細胞(cancer associated fibroblast:CAF)」に形を変え成長することを発見したと発表した。

同成果は岡山大学大学院自然科学研究科(工)ナノバイオシステム分子設計学研究室の妹尾昌治 教授および笠井智成 講師らの研究グループによるもの。詳細は国際科学雑誌「NScientific Reports」に掲載された。

がん組織は、がん細胞とさまざまな種類の間質細胞で構成されている。特に間質細胞であるCAFは、固形がんの間質組織を構成する細胞成分の中で、量的にもっとも多い細胞で、がんの微小環境を作り、がん細胞の増殖促進に働くさまざまな増殖因子を産生することから、がん細胞との相互作用の関係が重要視されていたが、その起源は明らかになっていなかった。

今回の研究では、乳がんを対象として研究を進める中で、がんの微小環境「ニッチ」を形成している筋線維芽細胞様の細胞が、がん幹細胞に由来して出現することを発見。がん幹細胞がCAFの起源の1つとして、がん幹細胞自身の自己複製を促していることが示されたとする。

研究グループは今後、がん患者の組織内に存在する細胞との関連を明らかにしていくことで、これまでに無いがんの診断方法の実現や、それを応用した「個の医療」、さらに、制がん剤をスクリーニングする「がん幹細胞パネル」や実験動物モデルなどへの応用が期待されるとコメントしている。

がん幹細胞から分化して生まれた「がん関連線維芽細胞(CAF)」。この誘導には、ヒト乳がん細胞株T47D細胞由来(左のスケールバー:200μm)および同BT549細胞由来(右 スケールバー:100μm)の培養上清を用いている (出所:岡山大学Webサイト)