京都大学(京大)と東京大学(東大)は7月27日、二酸化炭素(CO2)の吸着を光によって制御することができる多孔性材料の開発に成功したと発表した。
同成果は、京都大学高等研究院物質-細胞統合システム拠点 北川進拠点長、東京大学工学系研究科化学生命工学専攻 佐藤弘志講師らの研究グループによるもので、7月24日付の英国科学誌「Nature Communications」に掲載された。
多孔性材料は、小さな穴が無数に空いた構造を持つ。近年では、多孔性金属錯体(PCP)という多孔性材料の穴にガス分子を吸着させる技術がCO2などの分離・貯蔵に有用であるとして開発が進められてきた。しかし、多孔性材料の結晶は柔軟性がなく、ガス吸着量を変化させることが困難であるという課題があった。そこで同研究グループは今回、光刺激によってPCPの穴の大きさを調整し、CO2吸着量を調整できる多孔性材料を新たに開発した。
同研究グループが今回着目したのは、紫外光の照射で閉環反応を、可視光の照射で開環反応を示すことで知られるジアリールエテンという有機分子。これをPCPのナノ細孔の表面に導入することで、照射する光の種類によって穴の形と大きさが可逆的に変化する構造を作ることを考えた。
しかし、分子が密に詰まったPCPの固い結晶中では、ジアリールエテンが反応を示すために必要な空間的ゆとりがない。そこで、ジアリールエテン誘導体(DAE)を導入したPCPを、知恵の輪の要領で組み合わせることで、フレームワーク同士の相対的な位置が変化できるようにした。これにより、PCPに構造的な柔らかさが生まれ、DAEが光反応を示すための構造的余裕を産むことができた。
構造的な柔らかさのないPCPでは、何時間光照射を続けても10%から20%の光反応率であったが、今回開発したPCP結晶では、数分間の紫外光照射で95%以上のDAE部位が閉環反応を示したという。またこれにより、細孔容量が変化し、CO2の取り込み量も30%以上減少。可視光の照射で、紫外光照射前と同じ構造に戻り、CO2を取り込む能力も回復した。
従来の多孔性材料では温度や圧力を変えることで吸着現象を制御していたが、光によって可逆的に吸着現象を制御できるという今回の成果により、同研究グループは、これまでより簡単に、任意のタイミングでCO2の分離・回収を行い、さらに取り出すことによる再利用も可能になると説明している。