京都大学は、シジュウカラが初めて聞いた文章(鳴き声の組み合わせ)であっても、文法のルールを当てはめることで正しく理解できることを明らかにしたと発表した。
同研究は、京都大学生態学研究センターの鈴木俊貴研究員らの研究グループによるもので、研究成果は日本時間7月28日「Current Biology」にオンライン掲載された。
シジュウカラは、異なる意味を持つ鳴き声(単語)を文法に従って組み合わせ、文章をつくることが知られるヒト以外で唯一の動物である。シジュウカラは仲間とともに捕食者を追い払う際、警戒を促す音声(ピーツピ)と仲間を集める音声(ヂヂヂヂ)を決まった語順(ピーツピ・ヂヂヂヂ)に組み合わせる。この音列を聞くと、シジュウカラは警戒しながら音源に接近するが、語順を逆転させた合成音にはこれらの反応を示さない。これは、シジュウカラにおける文法ルール(警戒→集合)の存在を示している。しかし、このルールが新しい文章を理解する上でも適用できるものなのか明らかではなかった。
同研究では、シジュウカラがこの文法のルールを当てはめることで、初めて聞いた単語の組み合わせ(文)からも正しく意味を理解できるかどうか、反応を調べることで検証した。シジュウカラは秋から冬にかけて他種の鳥類とともに群れをなして生活しており、調査地である長野県軽井沢町ではコガラとともに群れをなし、コガラのさまざまな鳴き声の意味を理解する。
コガラは「ディーディー」と聞こえる鳴き声を発して仲間を呼ぶが、シジュウカラもこの鳴き声に反応して集合する。つまり、シジュウカラにとって、コガラの集合の音声(ディーディー)は、仲間のシジュウカラが発する集合の声(ヂヂヂヂ)と同義語といえる。そこで、シジュウカラの警戒声(ピーツピ)とコガラの集合声(ディーディー)から新しい文章を合成し、シジュウカラがこの合成文から正しく意味を読み解けるかどうか実験した。同研究グループはこの試みについて、タレント・ルー大柴氏の話し方(ルー語)のように、日本語の文章の一部を英単語と入れ替えた状態と例えている。
その結果、シジュウカラは、同種の警戒声と他種の集合声が文法的に正しく並んだ場合(ピーツピ・でディーディー)、同種の鳴き声のみからなる同義の音列(ピーツピ・ヂヂヂヂ)を聞いたときと同じように、周囲を警戒しながら音源に接近することがわかった。一方、語順を逆転させた音列に対しては、警戒反応も音源への接近もほとんどみられなかった。つまり、シジュウカラは、初めて聞いた単語の組み合わせ(文章)に対して、「警戒→集合」という文法のルールを当てはめることで、正しく情報を解読できることがわかった。
今後は、「警戒→集合」以外にも文法のルールはあるか、シジュウカラにとっての品詞とは何かなどを明らかにしたいという。また、同研究の成果はヒトの言語において文法がどのように進化したのか、その成り立ちを考える上でも重要な発見であり、シジュウカラと近縁な鳥類種においても研究を展開することで、文法を用いた情報伝達がどのような要因によって、そしてどのようなプロセスを経て進化したのか解明したいと考えているとのことだ。