理化学研究所(理研)は7月21日、新しく開発した超重元素実験装置の気体充填型反跳分離器「GARIS-II」を用いて原子番号112のコペルニシウム同位体283Cnを合成し、その崩壊エネルギーと崩壊時間の検証に成功したと発表した。

同成果は、理化学研究所仁科加速器研究センター超重元素分析装置開発チーム 加治大哉仁科センター研究員、森本幸司チームリーダー、超重元素研究グループ 森田浩介グループディレクターらの研究グループによるもので、7月21日付けの日本物理学会誌「Journal of the Physical Society of Japan」オンライン版に掲載された。

原子番号104以降の超重元素は、重イオン加速器を利用した融合反応で人工的に合成する。これまで、理研を中心とする研究グループは、「冷たい融合反応」と呼ばれる原子番号82の鉛や83のビスマスを標的とした重イオン融合反応により、原子番号108のハッシウムから、原子番号113のニホニウムに至る超重元素の原子核の合成に成功してきた。

一方、ニホニウムを超える新元素の合成では、アクチノイドを標的とした「熱い融合反応」を適用する。理研ではこれまでに、カルシウムビームをキュリウム標的に照射する熱い融合反応により、原子番号116のリバモリウムの合成に成功している。

また、理研を中心とする研究グループは、原子番号119以降の新元素探索へ向けて、熱い融合反応研究に最適化した新しい気体充填型反跳分離器「GARIS-II」の開発も併せて進めてきた。今回の研究は、GARIS-IIの本格始動と位置づけられており、同研究グループは、熱い融合反応による原子番号112のコペルニシウムの合成に取り組んだ。

この結果、理研重イオン線形加速器から供給された大強度48Caビームと238U標的との熱い融合反応により合成した原子番号112のコペルニシウム同位体283CnをGARIS-IIで確認することに成功。ロシア・米国、ドイツによる2つの先行研究で確認されている283Cnの生成を検証することで、GARIS-IIの性能評価を行ったところ、GARIS-IIの高い分離・収集能力が実証された。

同研究グループは、今回の成果について、熱い融合反応研究において先行するロシア・米国の共同研究グループに対して十分な競争力を持つこと示したものであるとしており、今後はGARIS-IIを活用し、熱い融合反応を用いた包括的な研究や第8周期初となる新元素探索に取り組んでいく考えだ。

コペルニシウム合成実験の概要。イオン源から引き出したカルシウムビームを可変周波数RFQとRILACによって光速の11%の速度まで加速し、ウラン標的に照射すると融合反応が起こる。GARIS-Ⅱで入射粒子や計測上妨害となるバックグラウンドをできるだけ除去し、反応生成核であるCn同位体を効率よく焦点面検出器へと導く。1台の飛行時間検出器とシリコン半導体検出器「Si-box」で構成される焦点面検出器でCn同位体起源のα崩壊と自発核分裂事象を観測することで核種を同定する。また、シリコン検出器内で生じるα崩壊と自発核分裂の時系列を解析することで崩壊連鎖が得られる (画像提供:理化学研究所)