ジョージア工科大学の研究チームは、ペロブスカイト薄膜太陽電池を低温の溶液印刷プロセスで作製する新手法を開発したと発表した。

従来、結晶サイズが大きなペロブスカイト薄膜を得るには高温プロセスが必要とされていたが、これを低温プロセスで成膜できるようにした。低温プロセスではポリマー系基板が使用できるようになるため、太陽電池の低コスト化やフレキシブル化が可能になる。研究論文は、科学誌「Nature Communications」に掲載された。

MASP法で作製されたペロブスカイト薄膜の光学顕微鏡像(出所:ジョージア工科大学)

今回開発された手法は、2枚の板のあいだにインクを挟んだときにインク液面に生じる屈曲(メニスカス)を利用するため、MASP(meniscus-assisted solution printing)と名づけられている。

MASP法では、金属ハロゲン化物ペロブスカイト前駆体を含有したインク溶液を、上下2枚の板のあいだに挟んだ状態にする。上下の板は約300μmの間隔を空けて平行に配置し、上側の板を固定して、下側の板を可動にする。下側の板を連続的に動かすと、屈曲した液面の端部でインク溶液が蒸発し、ペロブスカイト結晶が形成される。

蒸発がトリガーとなって、溶液の内部から液面表面に新しいペロブスカイト前駆体が供給されるため、屈曲面の端部にペロブスカイト前駆体が蓄積して飽和相となる。この飽和相によって核形成と結晶成長が促進され、結晶サイズの大きな膜が広い面積にわたって平坦かつ均一に成膜されるという。

MASP法で得られる結晶サイズは20~80μmで、膜全体に結晶が均一に敷き詰められた状態になるため、結晶間の隙間によって電流が遮られることがない。また、結晶サイズが大きいということは、結晶粒界(結晶と結晶の境界部)が減るということなので、粒界における電子と正孔の再結合を防ぐ効果がある。これらによって太陽電池としての効率が向上すると考えられる。

大きな結晶サイズのペロブスカイト薄膜を作るには、これまで溶液を高温で蒸発させる方法がとられていたが、MASP法では60℃程度の低温プロセスでの成膜が可能になる。このためポリマー系の基板材料を使用することができるようになる。

研究チームが試作したペロブスカイト薄膜太陽電池セルの変換効率は平均18%、最高20%程度と報告されている。また、ペロブスカイト太陽電池は耐久性に課題があるとされているが、今回のデバイスでは封止なしの状態で連続100時間超の動作を確認しているという。これについては「結晶品質を高めたことで薄膜の安定性も向上した」と説明されている。

MASP法による薄膜形成の概念図。2枚の板に挟まれた液面の屈曲が利用されている(出所:ジョージア工科大学)

現時点でMASP法で作製されているのは数cmサイズの試作セルだけだが、同法はスケールアップが可能であり、ロールtoロール方式の連続印刷によるペロブスカイト薄膜の量産技術にも適用できる可能性があると研究チームは主張している。

研究チームは、上下の板の間隔や下側板を動かす速度、加熱温度などの条件を最適化するため、MASPプロセス中での結晶成長の様子を光学顕微鏡で動画観察する研究なども行っている。それによると、結晶は最初のうち二次関数的な速度で成長するが、隣の結晶とぶつかって結晶間での影響が出るようになると成長速度が下がり、一次関数的な成長に変わることがわかったという。この傾向は、研究チームが観察したすべての薄膜で見られたとしている。