東京農工大学は、同大学大学院工学研究院の嘉治寿彦准教授、同大学院博士前期課程在籍の石橋浩伸氏、近畿大学理工学部の田中仙君講師らの研究グループが、次世代太陽電池として注目されているペロブスカイト太陽電池の分野において、熱安定な有機物であるグアニジンヨウ化水素酸塩が、ペロブスカイト太陽電池の主原料であるヨウ化鉛とは反応しないにもかかわらず、その代替材料として通常用いられるヨウ化スズとは反応して、太陽電池として動作することを発見したことを発表した。この研究成果は7月10日、英国の科学誌「Scientific Reports」に掲載された。
ペロブスカイト太陽電池は、現在主流のシリコン太陽電池にせまる高い太陽光エネルギーの変換効率と、安価というメリットがある一方で、主原料として、人体に有害な鉛や、有機物の中でも熱分解しやすいメチルアミンヨウ化水素酸塩などを用いているなど、実用化への問題も抱えている。
こうした太陽電池材料の探索において検討されている、ハロゲン化アミン有機材料のひとつ「グアニジンヨウ化水素酸塩」は、ペロブスカイト太陽電池の主要材料であるヨウ化鉛とは反応しないことが報告されており、あまり有力な材料とはされていなかった。
研究グループは、このグアニジンヨウ化水素酸塩が、ペロブスカイト構造作製の指針とされるトレランスファクターからはヨウ化鉛より不利な、ヨウ化スズと反応したことを発見した。この反応でできた薄膜の可視光吸収、X線回折、および太陽電池動作を確認するとともに、グアニジンヨウ化水素酸塩の熱安定性が高いため、ペロブスカイト太陽電池材料で一般的なメチルアミンヨウ化水素酸塩やホルムアミジンヨウ素酸塩とは異なり、高真空下で精密制御した真空蒸着法による薄膜の形成が可能なことを確認した。
さらに、真空蒸着中に液体を同時に蒸発させて結晶成長の制御をおこなう共蒸発分子誘起結晶化法により、ヨウ化スズの結晶粒子の大きさを制御し、非常に低い光電変換効率ではあるものの、太陽電池の短絡電流密度の向上にも成功した。
この研究で作製したグアニジンヨウ化水素酸塩と、ヨウ化スズを反応させて用いた太陽電池の効率は、現段階では非常に低い。しかし、今回の成果は今後人体に有害な鉛を用いない、安全なペロブスカイト太陽電池の研究開発の促進に役立つことが期待されるということだ。