東京工業大学 理学院 化学系の前田和彦准教授、石谷治教授、栗木亮大学院生・日本学術振興会特別研究員らの研究グループは、ルテニウム(Ru)複核錯体と窒化炭素からなる融合光触媒が、可視光照射下での二酸化炭素のギ酸への還元的変換反応に対して特異的に高い活性を示すことを発見した。実験条件を最適化した結果、これまでに報告されていたものよりも触媒耐久性を示すターンオーバー数は約3倍にまで向上し、CO2還元の選択率も75%から最大で99%まで大幅に改善された。

前田准教授らはこれまでに、C3N4とRu錯体を融合した複合光触媒と用いて、太陽光の主成分である可視光照射下・常温常圧化でCO2を還元することに成功していた。だが、この触媒の高効率化には、C3N4からRu錯体への電子移動の促進が必要となっていた。

本研究では、尿素を熱分解して得られるシートC3N4が、ホスフォン酸基を吸着部位としてもつRu錯体を強固に吸着できることを発見した。これにより、効率的な電子移動が実現し、CO2光還元反応の高効率化に成功した。

シート状C3N4とRu複核錯体を組み合わせた複合光触媒によるCO2還元

光触媒の合成条件とCO2光還元の反応条件を検討した結果、CO2溶解度の低い水中でも高い光触媒活性が得られることがわかった。CO2を還元し、ギ酸を生成するターンオーバー数は従来の660から2090に、CO2還元の選択率は75%から99%に向上した。

今回の研究成果は、C3N4の表面が、特別な化学処理を経ることなく有用な化学反応系構築に利用できることを示している。ギ酸は、水素を貯蔵・輸送できるエネルギーキャリアとして有用だが、組み合わせる錯体を変えることで、一酸化炭素を高い選択率で得ることも可能となる。またC3N4は、主構成元素である炭素や窒素以外の元素を取り組むことで、よりエネルギーの小さい可視光の有効利用も可能になり、ひいては太陽光エネルギーの有効利用につながると期待される。

本研究は東工大技術部すずかけ台分析部門の魯大凌技術職員、大阪市立大学複合先端研究機構の吉田朋子教授、名古屋大学未来材料・システム研究所の八木伸也教授のグループとの共同で行われた。

本研究の一部は、日本学術振興会・科学研究費補助金・若手研究A「窒化炭素系半導体と金属錯体を融合した二酸化炭素固定化光触媒の創出」、新学術領域研究「複合アニオン化合物の新規化学物理機能の創出」(代表:前田和彦東京工業大学准教授)、科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業(CREST)「太陽光の化学エネルギーへの変換を可能にする分子技術の確立」(代表:石谷治東京工業大学教授)の助成を受けて行われた。