京都大学理学研究科特定研究員の常盤欣文氏(現:アウグスブルク大学研究員)、笠原裕一准教授、松田祐司教授、東京大学博士課程学生の竹中崇了氏、水上雄太助教、芝内孝禎教授、橘高俊一郎助教、榊原俊郎教授らの研究グループは26日、英ブリストル大学、仏エコール・ポリテクニーク、独マックスプランク研究所と共同で、重い電子系超伝導体CeCu2Si2における超伝導電子の電子状態を明らかにしたと発表した。
重い電子系とは、電子間の相互作用が非常に強く、金属的な電気伝導を示すにも関わらず、伝導電子の有効質量が自由電子の質量に比べて数百倍から千倍も「重く」なる物質群のこと。
1979年に発見されたCeCu2Si2は、非従来型超伝導他愛の先駆け物質で、1986年に発見された銅抗酸化物高温伝導体や2006年に発見された鉄系超伝導体と多くの共通点を持つ、超伝導研究のカギとなる物質だ。CeCu2Si2における超伝導電子の電子状態は従来型の超伝導体で共通しているs波型ではなく、銅酸化物高温超伝導体と同じd波型であるといわれていた。
今回本研究グループは、超伝導ギャップ構造を決定するとともに、不純物効果を詳細に調査することで、CeCu2Si2における超伝導電子の電子状態がd波型ではなくs波型であることを明らかにした。これは、重い電子系超伝導体では磁気ゆらぎに基づいて超伝導が実現する、という定説を覆し、磁気ゆらぎとは別の機構が関与することを示唆している。
上図により、CeCu2Si2は他の新奇な超伝導体と比べて超伝導転移温度が抑制されにくいこと、つまり不純物によって超伝導電子が壊されにくいことがわかる。
今回の発表に伴い研究者は「本物質は、鋼酸化物や鉄系高温超伝導体などの研究を開拓する契機なった、重要な物質。約40年信じられてきた定説を覆す実験的証拠を得ることができた。この結果は、高温超伝導体を含む電子同士の相互作用が強い物質系における超伝導のメカニズムを理解するうえで、新たな指針を与えると期待される」とコメントしている。
本研究成果は、2017年6月23日付けで米国の科学誌「Science Advances」にオンライン掲載された。