産業技術総合研究所(産総研)は6月26日、走査型SQUID顕微鏡を用いて海底のマンガンクラスト試料に残された磁気的記録を高分解能でイメージングし、形成年代の推定と過去の気候変動の影響の検出に成功したと発表した。

同成果は、産総研地質情報研究部門地球変動史研究グループ 小田啓邦上級主任研究員、野口敦史リサーチアシスタントらの研究グループによるもので、6月3日付の米国科学誌「Geophysical Research Letters」に掲載された。

マンガンクラストには数千万年にわたる海洋環境や気候変動の記録が残されており、その正確な形成年代を決めることで、長期にわたる過去の地球環境情報の精密な復元が期待される。マンガンクラストの形成年代を推定するには、化学分離と加速器質量分析装置によるベリリウムなどの同位体分析が主な方法だが、手間や時間がかかるという課題があった。

一方、走査型SQUID顕微鏡は、微小な検出コイルを持つ高感度なSQUID(超伝導量子干渉素子)磁気センサを用いて、試料表面のごく近くの微弱な磁場の分布を顕微鏡スケールでイメージングできる装置で、半導体や超伝導物質の分析、機械部品の亀裂確認を目的とした非破壊検査などに用いられる。

今回、同研究グループは、走査型SQUID顕微鏡を用いてマンガンクラストの薄片表面を0.1 mmの高分解能で磁気イメージングして、過去の地球磁場逆転の磁気的な記録を測定し、標準地球磁場逆転年代軸との比較によって形成年代を推定した。

対象としたのは、海洋研究開発機構の2009年の調査航海で南鳥島南西方約150kmの水深約2200mに位置する海山の露頭から採取したマンガンクラスト。推定した年代から、成長速度は平均で百万年あたり3.4mmと推定された。同じ試料のベリリウム同位体分析による成長速度の推定値は百万年あたり2.9mmであり、両者はおおよそ一致していた。

また、同マンガンクラストに含まれる磁性鉱物の保磁力の磁気イメージングから、300万年前から現在にかけて保磁力が高い磁性鉱物が増えていることが確認された。これは、一般的に知られている約280万年前の北半球の氷床発達にともなってユーラシア大陸から風で運ばれる土壌粒子が、マンガンクラストが成長した場所まで以前よりも多く運ばれるようになったためであると同研究グループは考察している。

今後は、走査型SQUID顕微鏡に液体ヘリウム液化循環装置を導入して連続運転できるようにし、迅速にマンガンクラストの年代を非破壊で推定できるようにしていきたい考えだ。

(左)マンガンクラスト薄片試料の表面磁場を光学顕微鏡画像に重ね合わせた図。赤が画面上向き、青が画面下向きの磁場を示す (右)分析したマンガンクラストの断面 (出所:産総研Webサイト)