東北大学は、熊谷泉名誉教授、同大学大学院工学研究科の梅津光央教授、杉山在生人氏らの研究グループが、がん細胞を効果的に傷害でき、治療薬として有望な組換え抗体分子を簡便にスクリーニングする手法の開発に成功したことを発表した。この研成果は6月6日、英国の科学雑誌「Scientific Reports」(オンライン版)に掲載された。

低分子型組換え抗体の構造とがん細胞傷害時の作用機序

がん細胞と免疫に関与するT細胞を架橋できる「二重特異性抗体」は、腫瘍に対して高い浸透性を有するだけでなく、T細胞を利用した従来とは異なる作用機序でがん細胞を傷害できることから、次世代型の抗体医薬品として期待されている。

この二重特異性抗体の一種であるディアボディは、高い薬効を有することが知られているが、それを構成するがん細胞結合抗体とリンパ球結合抗体の組合せによって、薬効が変化してしまうことが課題であった。そのため、2種の抗体の組合せから網羅的にディアボディを作製し、作製したディアボディライブラリから効率的に高薬効型をスクリーニングする手法を開発することが急務であった。

そこで研究グループは、発現遺伝子ベクターの効率的な作製法、組換え抗体の簡易的な精製のみを介した簡便な薬効評価法を開発し、組合せの網羅的な検討を可能とするプロセスを構築した。これを実証するために100を超えるディアボディを網羅的に作製し、開発した薬効評価法を用いてスクリーニングを行ったところ、従来よりも約千倍高い薬効を示す組換え抗体の創製に成功した。

さらに、高薬効型ディアボディ群の諸特性を比較したところ、「LH 型と呼ばれる構造設計が高薬効を発現しやすいこと」、「効果的に薬効 を発現できるエピトープ(抗体が認識する領域)が存在すること」、「リンパ球に対する結合力より、がん細胞に対する結合力の方が薬効発現に重要であること」といった、薬効発現に大きく関わる"薬効ルール"を見出すことにも成功した。

このスクリーニング手法の確立により、組換え型がん治療抗体開発のさらなる加速が期待されると説明している。