Synopsysは6月1日、同社が5月23日(米国時間)に発表した同社が提供する組み込みプロセッサIPの最新世代となる「DesignWare ARC HS4x/4xDファミリ」に関する説明会を実施、ARCプロセッサファミリにおけるHS4xファミリの位置づけや、強化ポイントなどをSr.Manager、Product Marketing,ARC Processors & Subsystems,Solutions GroupであるMicheal Thompson(マイケル・トンプソン)氏が解説した。
ARMはメジャーなプロセッサだが、1文字違いのARCは、同じプロセッサ分野の製品ながら、それほどメジャーでもなく、「謎」、という言葉が似合いそうに思われそうだが、32ビットRISCプロセッサとしての立ち位置は、元々、低消費電力でそこそこの処理性能を発揮する、というあたりで、電子機器のほか、玩具などの分野でも広く活用されるなど、組み込み分野では知る人ぞ知る存在のIPであった。2010年にSynopsysがVirage Logic(Virageは2009年にARC Internationalを買収済み)を買収することで、現在はSynopsysの元で、開発・販売が継続されており、今や年間15億台以上の製品に実装されるまでに成長してきている。その特徴は、用途に応じたコンフィギュレーションが可能という点。メインプロセッサとして利用することもあれば、コプロセッサ的な利用も可能で、例えばIntelのCurieモジュールには、センササブシステムにFPUを有するARC EM4 DSPコアが搭載されているといった具合に、ちょっとしたプロセッサ処理をさせるのにちょうど良いということで、採用が増加しているようだ。
そんなARCプロセッサは、今回のHSxファミリのほか、低消費電力/小面積が売りの「DesignWare ARC EMxファミリ」や、EMファミリをベースとしたデュアルコア・ロックステップ・プロセッサ、セキュリティ・プロセッサ、ビジョン・プロセッサなどが提供されている。最新世代かつ最上位機種となるHS4xファミリは、性能(パフォーマンス)重視のプロセッサで、HS4xファミリとして、「HS44/46/48」の3製品が、DSPを搭載したHS4xDファミリとして、「HS45D/47D」の合計5製品が用意されている。
いずれもシングル/デュアル/クワッドコアに対応しており、1コアあたり6000DMIPSの命令実効が可能なほか、ARCプロセッサとしては初めてとなるデュアルイシューのスーパースカラアーキテクチャを採用。DSPは150超の命令を実行可能であり、パイプラインは前世代のHS3xファミリと同じ10段ながら、デュアルイシュー化と併せて、処理性能を2倍に高めることができたという。
Thompson氏は、その性能指標として、Cortex-A9比で処理性能を45%向上しながら、消費電力を半減できるとするほか、MIPSのInterAptivプロセッサコアもしくはCortex-A7比で処理性能を2倍に向上しながら、20%の電力低減、Cadence Design Systemsが提供するARCと同じコンフィギュラブルなプロセッサコア「Tensilica」と比べて、2.5倍の処理性能、そしてCortex-A17と比べても2コア構成のHS48であれば、より高性能を実現しつつ、Cortex-A9よりも低い消費電力を提供できると、具体的な例を挙げる。ただし、「ARMのCortex-Aシリーズと比較をしているが、決して競合であると考えていない。ARCプロセッサは電子機器の周辺チップなどで活用されるもので、決してスマートフォンやPCのCPUとして競合しようという意図もない」とも説明しており、あくまで、これまでARCがターゲットとしてきたアプリケーションが、より高い性能を欲するようになってきた動きを受けて、HS4xファミリが開発された、とする。
HS4xファミリと他社プロセッサとの性能比較。あくまで性能比較は目安で、決して、これらのプロセッサとダイレクトに競合するわけではないことに注意が必要。ちなみに、16nm FinFETプロセスを用いれば、2.5GHz超での動作が可能だという |
特に性能が求められるようになってきた分野としては、IoTや自動車、ビジョン系などを挙げており、同氏としても、セキュリティへのフォーカスを継続していくほか、エンベデッドビジョンの次の市場としてのディープラーニングなども注目すべき分野になるとし、それらアプリケーションの動きを踏まえ、すでに5年先に向けたロードマップも作成済みであることを強調する。ただし、64ビット化への対応など、新たな取り組みについては、「ARCの基本は組み込み」ということで、組み込み市場でのニーズに応じた機能強化を行っていく、としており、あくまでアプリケーションオリエンテッドな、低消費電力で省スペースを実現する、という点を継続して武器にビジネスの拡大を進めて行きたいとしていた。