東京農工大学は、塩素化エチレン類をエチレンまで完全に脱塩素化する能力を有する微生物を発見し、そのゲノム解析の過程でゲノムの組換えが起きていることを明らかにしたと発表した。

微生物コンソーシアを用いた土壌の浄化。微生物コンソーシアを大量に培養し、汚染のある場所に投入することで、従来よりも短時間で浄化が可能になる。(出所:東京農工大学プレスリリース)

同研究は、東京農工大学大学院工学研究院の養王田正文教授とPaGE Science、沖縄綜合科学研究所(現先端医療開発沖綜研ゲノム解析室)、製品評価技術基盤機構、アイ・エス・ソリューション、ADEKAらの共同研究によるもので、同研究成果は「Scientific Reports」に5月22日付で掲載された。

塩素化エチレン類は、脱脂溶剤や洗浄剤として広く用いられていたが、現在は有害性が指摘されており、代替物質への移行が行われている。しかし、塩素化エチレン類は難分解性で水に溶けにくいため、過去に廃棄や漏洩した塩素化エチレンが土壌汚染や地下水汚染の原因となっているという。現在、微生物の分解能力を利用した環境浄化技術「バイオレメディエーション」が実用化されているが、塩素化エチレン類を無害なエチレンまで完全に脱塩素化できるのは特定の微生物のみのため、分解ができなかったり不完全に脱塩素化された、より有害な塩素化エチレン類が生成することもあるのが現状となっている。そのため、分解に関わる微生物を単離、培養して汚染サイトに投入する「バイオオーグメンテーション法」が提案されているが、塩素化エチレン類をエチレンまで浄化可能な微生物はデハロコッコイデス属細菌の一部の種のみであり、単離や培養が極めて困難だったということだ。

デハロコッコイデス UCH-ATV1株を含む微生物コンソーシアによるトリクロロエチレン(TCE)の分解(出所:東京農工大学プレスリリース)

ゲノム組換えの証拠(出所:東京農工大学プレスリリース)

塩素化エチレン類をエチレンまで完全に脱塩素化する能力を有する新規の微生物(デハロコッコイデス UCH-ATV1株)は、単独では増殖が極めて遅いものの、塩素化エチレンを脱塩素化する微生物コンソーシア(複数の微生物から構成される培養系)から分離した他の微生物と混合して培養したところ、高い塩素化エチレン類脱塩素化能を有する微生物コンソーシアを構築することに成功した。この微生物コンソーシアに共存する微生物のゲノム解析を行い、遺伝子情報からは安全性が確認されていることから、実用化が期待される。また、培養の初期の段階のゲノム情報と単離後のゲノム解析結果を比較したところ、培養の過程でゲノムの組換えが起きていることが明らかになった。短期間でゲノムの大幅な組換えが起きることを証明した結果となり、謎に満ちたデハロコッコイデスの生態の解明につながる重要な成果だという。

今後は、デハロコッコイデス UCH-ATV1株を含む微生物コンソーシアの実用性と安全性を実証し、経済産業省と環境省による適合確認を受けてから土壌浄化に実用化する予定となっている。また、共存する微生物との共生関係をゲノム情報から解明することで、より高効率な培養系の構築を行うとのこと。高頻度におきるゲノム組換えは、原核生物におけるファージ感染に対する獲得免疫システム「Crispr-Casシステム」によるものであると考えられるので、そのメカニズムの解明も行うことで、ゲノム編集技術に応用できる可能性もあるとされている。