東京大学は、同大学大学院医学系研究科附属疾患生命工学センター臨床医工学部門の大庭伸介准教授と鄭雄一教授の研究グループが、薬剤のみを誘導剤として用い、組成が不明なものを一切含まない培養系で、マウス多能性幹細胞から三次元的な骨様組織を作製する方法を開発したことを発表した。この研究成果は5月12日、米国科学振興協会のオンライン科学雑誌「Science Advances」で発表された。
ES細胞やiPS細胞といった多能性幹細胞から種々の細胞を作製し、培養皿上で三次元的に組織様構造体を作ることは、再生医療のみならず組織形成過程の理解や治療用薬剤の開発に貢献すると考えられる。
作製にあたっては、安全性やコストの観点から、従来より用いられてきたウシ胎仔血清のように組成が不明なものや、遺伝子導入、組換えタンパク質を使用せずに、目的とする細胞を三次元的に誘導できることが理想的である。この観点から、血清・遺伝子導入・組換えタンパク質の代わりに低分子化合物を用いて幹細胞を維持したり、目的とする細胞への分化や増殖を制御したりする方法が注目を集めている。
研究グループは2014年、組成が不明なものを一切含まない組成が不明なものを用いることなく、4種類の薬剤のみを誘導因子として用いることにより、多能性幹細胞から中胚葉を経由して効率的に骨芽細胞を誘導する方法を開発していた。今回の研究ではこの誘導方法を、アテロコラーゲンスポンジを担体として用いた三次元培養系に応用することで、マウス多能性幹細胞から三次元的に骨様組織を作製することに成功したという。
この手法は、生体内の臓器を模倣した三次元組織を試験管内で効率的に作製するための基盤技術のひとつとなると考えられるという。特に、骨芽細胞・骨細胞・破骨細胞という骨の形成と維持を制御する細胞が三次元的に機能する骨様組織を、多能性幹細胞を用いて培養皿上・試験管内で作製できる可能性を提示するとのことだ。
これにより、骨粗鬆症などさまざまな骨疾患の治療薬開発や骨再生医療のみならず、骨組織に生じる疾患の理解や骨組織の形成と維持のメカニズムの理解に貢献することが期待されると説明している。