海洋研究開発機構(JAMSTEC)と理化学研究所(理研)は4月28日、深海熱水噴出域の海底面で発電現象が自然発生していることを明らかにしたと発表した。
同成果は、JAMSTEC海底資源研究開発センター 山本正浩研究員、理化学研究所 環境資源科学研究センター 中村龍平チームリーダーらの研究グループによるもので、5月10日付けのドイツ科学誌「Angewandte Chemie International Edition」オンライン版に掲載される。
海底熱水噴出孔では、Fe2+、Cu2+、Zn2+などの金属イオンと、電子を放出しやすい硫化水素、水素、メタンなどのガスを大量に含む熱水が放出されており、周囲の海水によって急激に冷やされることで硫化鉱物が沈殿し海底に鉱床を形成する。同研究グループはこれまでに、この海底熱水鉱床の硫化鉱物が高い導電性を持つことや、化学反応の触媒活性を持ち電極として利用できること、さらに熱水と海水を用いて現場で人工的な発電が可能であることを発見してきた。
これらの事実より、深海熱水噴出孔が"天然の燃料電池"として機能し発電現象が生じていることが予想されたため、今回の研究では、この仮説を検証するために、沖縄トラフの深海熱水噴出域において、現場電気化学計測と鉱物試料の採取を行い、さらに持ち帰った鉱物試料について実験室で分析を行った。
この結果、活動的な海底熱水噴出孔では、海底下の熱水から海底面への海水への硫化鉱物を介した電子の伝達による電流発生が、広い範囲で自発的に生じていることが示された。この発電力は、熱水噴出孔を中心に少なくとも周辺約百m先の鉱物表面で観察されたため、深海熱水噴出域が巨大な天然の燃料電池として機能しており、常に電流が発生していることが考えられるという。
同研究グループは、今回の成果により、海底に電気をエネルギー源にする生態系が拡がっている可能性や、大昔の地球の深海熱水噴出孔において電気の力で生命が誕生した可能性が得られたと説明しており、今後、地球外生命の探査方法が大きく変更されることが期待されるとしている。