マサチューセッツ工科大学(MIT)とカリフォルニア大学バークレー校(UCバークレー)の研究チームは、乾燥した空気から水を取り出す装置を開発した。エネルギー源として利用するのは太陽光だけであり、湿度20%程度の乾燥地帯でも、1日に数リットルの水を作り出すことができるという。研究論文は、科学誌「Science」に掲載された。
外気から水を得る技術は、チリやモロッコなど多くの地域ですでに利用されているが、これには湿度100%の霧のような環境が必要とされる。湿度の低い乾燥地域で空気から水を取り出そうとすると、既存の技術では水を結露させる表面を低温に冷却しなければならないため、エネルギー消費量が大きかった。今回の装置は、冷却に特別なエネルギーを使わず、太陽光だけで動作する点が注目される。
UCバークレーが開発した金属有機構造体(MOF: metal-organic framework)を用いて、MITが装置開発を行った。試作された装置では1kgのMOFを使用し、湿度20~30%の条件下で12時間稼動させて、水2.8リットルを空気中から生成することができた。実験は装置を屋上に設置して行い、現実の環境下で動作することを確認した。
MOFは、2014年にUCバークレーが開発したもので、ジルコニウムとアジピン酸から構成されており、水蒸気と結合する性質がある。MITのチームは、このMOFの細かな結晶1kg程度を太陽光吸収体と復水板のあいだに置き、チャンバー内に設置する形の装置を設計した。
空気が多孔性のMOF中を拡散していくときに、親水性に設計されたMOFの内表面に空気中の水分子が選択的に付着する。X線回折による分析からは、水蒸気の分子が8個ずつ集まって立方体を形成することがあることもわかった。
装置を稼動させる場合、夜間にチャンバーを開放し、外気を取り込んで、MOF内に水分子をためる。昼間はチャンバーを閉じ、太陽光を利用してMOFの上に置かれた黒色の吸光体を加熱する。一方、MOFの下にある復水板は外気と同じ温度に保っておく。MOFの多孔質を通って水蒸気が放出され、下部の復水板の表面で結露して、液体の水になる。
MOFの材料としては、さまざまな金属と有機物の汲み合わせが可能。材料組成を変えてMOF表面の特性を調整することによって、最も効率よく動作する湿度の値を選択することもできるという。試作した装置ではMOF重量の20%程度の水を集めることができるが、性能にはまだ改善の余地があり、材料によってはこれを40%以上に高めることも可能であると考えられている。ジルコニウムを安価なアルミニウムに代替する研究も進んでいる。
MOFの開発を行ったOmar Yaghi氏は「この装置を設置すれば、将来的には水道を引かなくても、各家庭で太陽光と空気から必要な水を作れるようになる。パーソナライズド・ウォーターだ」ともコメントしている。