東京大学(東大)などは4月18日、多糖類の一種であるプルランから、添加剤をまったく必要としない「ゼロ複屈折ポリマー」の開発に成功したと発表した。
同成果は、東京大学大学院農学生命科学研究科生物材料科学専攻 岩田忠久教授、北陸先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科マテリアルサイエンス系 山口政之教授らの研究グループによるもので、4月18日付の英国科学誌「Scientific Reports」に掲載された。
液晶ディスプレイの基本構成材料のひとつである偏光板を保護する目的で、さまざまなポリマー保護フィルムが使われている。一般的なポリマー保護フィルムは、セルローストリアセテート、シクロオレフィン樹脂、アクリル系樹脂などのポリマーから製造されているが、その複屈折をゼロに近づけるために、多くの添加剤が混ぜられている。
同研究グループが開発したゼロ複屈折ポリマーには、原料としてプルランが採用されている。プルランは、微生物によって生合成される水溶性多糖類のひとつで、食品添加剤や可食性フィルムなどとして利用されており、階段状の珍しい分子構造を持っている。
今回の研究では、この分子構造に着目し、分子構造中に存在する3つの水酸基(-OH)をエステル基に置換してプルランアセテートに変えることにより、特徴的な分子構造を残したままで、ゼロ複屈折を発現させることに成功した。
これをもとに開発されたゼロ複屈折ポリマーは、ゼロ複屈折の発現に添加剤を一切必要としないが、これはプルランの持つ特徴的な階段状の分子構造により、分子配向が抑制されたためであると考えられるという。また、すべての可視光領域においてゼロ複屈折を示すことも確認されている。さらに、熱延伸を施しても分子配向の緩和が容易に起こることから、ゼロ複屈折の延伸フィルムも得ることができる。
ゼロ複屈折ポリマーについて同研究グループは、機械物性、耐熱性、耐水性、成形加工性に優れていることから、偏光板保護フィルムや位相差フィルムとしてさまざまな分野での利用が期待されるとしている。今後は、溶融押出成形などの工業手法によりゼロ複屈折フィルムの作製を行っていきたい考えだ。