大阪大学産業科学研究所は、同研究所の真嶋哲朗教授らと神戸大学分子フォトサイエンス研究センターの立川貴士准教授らの研究グループが、光触媒作用による水素生成量が1桁増加する光触媒の開発に成功したことを発表した。この成果はドイツの化学誌「Angewandte Chemie International Edition」に掲載された。
水素は、再生可能エネルギーである太陽光と水から製造できる次世代のエネルギー源として注目されており、水素を高効率に製造できる光触媒の開発が期待されてるが、従来の光触媒では電子と同時に生成する正孔(電子が抜けた孔)のほとんどが触媒表面上で再結合して消失してしまい、水から水素への光エネルギー変換効率が伸び悩んでいた。
このたび同研究グループは、立川准教授らは、粒子の配列を三次元的に制御し、電子と正孔を空間的に引き離す「メソ結晶化技術」の開発に成功し、従来の光触媒をはるかに超える光エネルギー変換効率を達成した。
メソ結晶の合成手順は複雑な場合が多いうえに形状の制御も容易ではなかったが、研究グループはメソ結晶に存在するナノメートルスケールの空間を利用した「トポタクティックエピタキシャル成長」という新しい合成法を開発。この合成法により、テンプレートとなる酸化チタン(TiO2)メソ結晶から、結晶構造の異なるチタン酸ストロンチウム(SrTiO3)メソ結晶を、容易に1段階の水熱反応で合成することに成功したという。さらに、反応時間を長くすることで、表面近くの粒子だけ、結晶の向きを揃えたまま大きく成長させることを見いだしたという。
また、このSrTiO3メソ結晶に助触媒を付着させて水中で紫外光を照射したところ、約7%の光エネルギー変換効率で反応が進行することが判明。メソ結晶化していないSrTiO3ナノ粒子について同条件で実験を行った場合の効率は1%に満たなかったことから、メソ結晶化により反応効率が1桁向上したことにある。
さらに、ひとつひとつの粒子を蛍光顕微鏡で観察したところ、生成した電子は表面の比較的大きなナノ結晶に集まることが示されたということだ。
以上のことから、このたび新たに開発された光触媒では、紫外線照射によって生成した電子はメソ結晶内部のナノ粒子間を効率よく移動し、消失することなく表面に生成した比較的大きなナノ結晶に集まり、高い効率で水素イオンを還元し水素を生成することが明らかになった。
同研究で有用性が実証されたメソ結晶化技術を、可視光応答型光触媒に応用することで、太陽光でのエネルギー変換の高効率化を目指せるほか、同研究で対象としたSrTiO3を含むペロブスカイト型金属酸化物はエレクトロニクス素子の基幹物質であることから、幅広い分野への応用展開が期待できるということだ。