千葉大学は2月15日、⾎糖値の調節や代謝の制御を⾏うインスリンとインスリン依存的な脂肪細胞内のシグナルが記憶の維持に必要であることを明らかにしたと発表した。
同成果は、千葉⼤学⼤学院薬学研究院の殿城亜⽮⼦助教と伊藤素⾏教授の研究グループによるもので、2月14日付けの米国科学誌「Cell Reports」に掲載された。
インスリンは、細胞膜上にあるインスリン受容体に結合し、細胞内にシグナルを伝えることが知られている。このインスリンシグナルは、哺乳類から昆⾍を含む無脊椎動物まで進化的に広く保存されており、発⽣や成⻑、代謝の制御などさまざまな時期や組織で重要な役割を果たしている。近年では、インスリンが学習・記憶に関与する可能性や、糖尿病などインスリンの調節異常が認知症のリスクファクターとなる可能性が⽰唆されているが、その詳細は明らかになっていない。
今回、同研究グループは、ショウジョウバエを使って実験を行った。ショウジョウバエは、匂いと電気刺激を条件付けすることによって、学習・記憶能を簡単に測定できるほか、老化した個体では記憶能⼒が低下することも知られている。
同研究グループは、発⽣や成⻑の時期に影響することなく⼀過的にインスリンシグナルを抑制したショウジョウバエを作成。その学習・記憶能を測定したところ、インスリンシグナルは記憶を維持するのに必要であることが明らかになった。また、インスリン受容体は筋⾁、脂肪組織や神経細胞などさまざまな組織に発現しているが、そのなかでも脂肪組織におけるインスリン受容体の発現が記憶の維持に必要であることがわかった。
ショウジョウバエでは、インスリンとインスリン様成⻑因⼦(IGF)の機能は、インスリン様ペプチドをコードする遺伝子Dilp1からDilp8までの8種でまかなわれているが、今回の研究により、このうち特にDilp3が記憶の維持に必要であることも明らかになった。Dilp3の発現は⽼化にともなって特異的に低下することから、⽼化したショウジョウバエにDilp3を過剰に発現させたところ、記憶が向上したという。
以上の結果から、若いショウジョウバエではDilp3と脂肪組織におけるインスリンシグナルの活性化によって記憶が維持される⼀⽅で、⽼化したショウジョウバエではDilp3の発現が低下することで記憶低下が引き起こされているものと考えられる。
同研究グループは今回の成果について、学習・記憶の仕組みの解明や加齢性記憶低下の原因解明に貢献するものであるとコメントしている。