がん研究会、がん研究所、FRONTEOヘルスケアは31日、ゲノム解析と人工知能といった先端技術を用いて、個別化医療をさらに推し進め「がんプレシジョン医療」を実現するシステムの開発に向けた共同研究を開始した。本稿では同日実施された記者説明会の様子をお届けする。
この取り組みによって最終的に目指す「未来予想図」。がん研有明病院で患者から採取した試料をリキッドバイオプシー診断など先端的な手段で解析し、その情報と人工知能が選別した論文・学会発表などの最新情報を組み合わせ、医師の診断・治療法の検討に役立てる |
同研究を通じ、がん患者1人1人の遺伝子変異などに合わせて最適な治療を提供する「がん個別化医療」の実現を目指していく。
今回の共同研究を通じて、がん研究会とFRONTEOヘルスケアは、ゲノム解析による検査結果に基づいて、FRONTEOヘルスケアが開発した人工知能「KIBIT(キビット)」が患者の症状・特性にあわせた治療法に関わる論文を探索し、医師の判断を支援するシステムの開発を進める。
まずは内臓がんと比較して再発期間が10年と長期にわたる乳がん、および肺がんに注力してシステムの開発を行い、5年以内に実用化(プロジェクトの完了)を予定。その後、他のがん領域への展開も検討中という。
「量より質」を重んじる人工知能を採用
人工知能を活用した医師の判断支援システムの開発背景には、日々増えていく論文や医療関連情報、患者の遺伝子情報やがん細胞に起きている異常の様子、治療法や副作用の少ない薬剤選びなど、選択肢とその組み合わせが多種多様となっていることがある。
また、人工知能の分野では参照データの量は重要な要素のひとつと見られ、ビッグデータの活用が行われている中で、同研究で用いられる人工知能「KIBIT」は、いわば「量より質」を重んじる学習機構を採用している。
人工知能に手本として読み込ませる教師データが少量でも動作するほか、ニュアンスの区別が必要となる言語データの解析を得意とする。そのため、FRONTEOヘルスケアは教師データの選別を専門家に依頼することで、少量のデータと軽微な設備・運用の負担で、「KIBIT」を活用したシステムの実用化を行えるとしている。
この研究に際して、KIBITは専門家が最新の医療情報の動向に基づく知見で選別した教師データとして用いることで、不要なデータやノイズを減らすフィルタとしての機能を果たす。
患者・家族へのインフォームドコンセント支援もシステム化
同研究において、がん研究会が2016年10月より開設した「がんプレシジョン医療研究センター」では、患者のがん関連遺伝子の異常を網羅的に解析するクリニカルシークエンスや、血液などの体液から遺伝子の変異を調べるリキッドバイオプシーなど最新の手法を活用し、がんゲノム情報を始めとするがん患者の各種情報を統合・解析できる仕組みを開発する。
一方、FRONTEOヘルスケアでは、2016年10月に発表した「がん個別化医療AIシステム(CPM-AIシステム)」のひとつとして、「診断支援システム」を開発する。がんの各分野の専門家の知見を活用し、論文や医療情報を解析する仕組みを構築、医師が検査結果を基に治療方針を決定する際に判断の助けとなる提案を行う。
加えて、治療法や薬剤に関する医師からの説明を患者・家族が十分に理解できるよう、人工知能が患者の理解度に合わせた説明を補足する「インフォームドコンセント支援システム」の開発も実施。これらふたつのシステム(診断支援システムとインフォームドコンセント支援システム)が5年後の実用化を目指しているもので、2021年末の完成を予定している。
このほか、FRONTEOヘルスケア単独で「情報支援システム」の開発も進める。医師向け、および患者・家族向けの医療コンテンツを生産するもので、一次的に専門家チームがKIBITの情報収集支援を受けながら専門性の高い記事を執筆。その次に、その記事の母集団から情報レベルに応じて患者向けの平易な表現でリライトを実施し、そのリライト記事の中からKIBITが患者にとって必要な情報を自動選択し提供する。