浦安病院のPepperに搭載するアプリケーションは「受診案内」「正面玄関案内」「外来患者さま案内」などのほか、院内で開催するイベント向けのコンテンツなど10個ほどを運用している。いずれも、法人向け製品の「Pepper for Biz」に付属する「お仕事かんたん生成」というテンプレート集を使って内製しているという。

浦安病院の総合受付で働くPepper

「当院で先行導入したPepperの活用状況や導入効果については、順天堂大学附属病院グループ全体で定期的に情報共有をしており、小川秀興理事長の後押しを受けて8月以降はグループ内の静岡病院、順天堂医院(本郷)、練馬病院でも順次Pepperの導入が進んでいます。また、順天堂大学情報センターとも共同でAIロボティクスの活用研究にも着手しました」(川島氏)

JR御茶ノ水駅に隣接する順天堂大学医学部附属順天堂医院は、交通の便が良いこともあり1日約4200人の外来患者が来院する都内でも有数の大病院で、午後になっても診察を待つ患者が受付にあふれている。Pepper導入を支援した順天堂 情報センター本部の杉村雅文氏によれば、あまり人が多く行き来する外来受付にPepperを置いても落ち着いたコミュニケーションが取れないだろうと判断し、比較的人の往来が少ないB棟外来入口に設置することにしたという。

学校法人順天堂 情報センター本部 本郷地区情報センター 課長補佐 杉村雅文氏

「B棟外来は案内スタッフがおりませんので、来院された方への案内は基本的にPepperが提供しています。アプリを内製する際には医学部総合診療科のドクターにもアドバイスをもらいながら、初診・再診の受付方法案内、お薬お渡し窓口や採血室への行き方、面会手続方法の案内などを作成しました。事前に浦安病院が実施した管理者研修会(基礎編、応用編の2回)に参加して、ソフトバンクから派遣された講師に『お仕事かんたん生成』の使い方を学んでいたので、アプリ作成は問題なく行えました」(杉村氏)

順天堂医院で働くPepper

Pepperのさらなる活用を目指して

Pepperの可能性について、鈴木医師は「現状では医師や看護師からアイディアを募っている状況」といい、認知症患者の見守りや転倒防止の注意喚起などでPepperを活用できないか検討中だ。また鈴木医師は、認知症の診断ツールとしての可能性に注目しているという。

「認知症の進行度合いを診断するために行う問診をPepperに担当させることのメリットは、質問者によるコミュニケーションのばらつきをなくせることです。人間対人間の対話では、どうしても相性であったりその日の気分や体調に左右される部分を排除できません。AIロボットを利用できれば、どんな患者さまとでも同一条件の会話が成立するので、より正確な診断が可能になるのではないかと期待しています」(鈴木医師)

いつも同じ言葉や反応しかできないことはロボットの非人間性として揶揄されることは多いが、相手を差別しないで平等に接することや、同じ質問にいやな顔をせず何度でも答えてくれるといったロボットならではの能力は、活用場面をうまく選べば人間より適切に仕事をこなす“人材”となる可能性を秘めている。患者の立場でも、孤独感を紛らわせるために誰かと会話を望んでも、忙しく立ち働く看護師を引き留めるのは気が引けるが、ロボットが相手ならそんな気遣いは不要だ。ロボット・セラピーに関する研究でも、高齢者に自発性の発現やコミュニケーション水準の向上が見られたという結果が出ている(参考資料:河嶋珠実(2014)「ロボットセラピー研究における事例整理および治療効果抽出の試み」)。

まだPepperを使った臨床研究は発表されていないようだが、鈴木医師の所感によれば「Pepperと触れ合ることで生まれる患者さんの自発性向上効果は間違いなく認められる」という。

順天堂医院 事務部の米澤和彦氏は、放射線被ばく対策にPepper活用の可能性を見ている。PET-CTとは全身のがんを早期発見するための検査方法で、微弱な放射能を出す成分(ポジトロン核種)を組み込んだ検査薬剤を患者に投与し、しばらく安静にしたのち撮影のために検査室へ移動する。

順天堂大学医学部附属順天堂医院 事務部 医事課・サービス課 臨床研修センター 部長事務代行 米澤和彦氏

「放射性薬剤の被ばく量は極めて微少で人体にはまったく害のないレベルなのですが、投薬を受けた患者を検査室へ案内する医療スタッフは、繰り返し患者と接することになるため何らかの対策は望ましい。そこで、Pepperに行き方を案内させられないか検討しています。医師や看護師などが行う作業で被ばくや感染を防ぐ対策を必要としている分野について、ロボットを活用することで安全性向上や作業時間の短縮などが期待できます」(米澤氏)

順天堂大学医学部附属の4病院に導入されたPepperは受付業務のサポートという位置付けで運用が開始されているが、各院ごとに実運用を通して医師や看護師などの医療スタッフからさらなる活用のアイディアを募り、定期的な情報交換を通して新しい活動分野を開拓していくという。大学病院としてPepper導入に先行した順天堂大学医学部附属病院グループの取り組みに注目したい。