関西大学と帝人は1月12日、ポリ乳酸繊維使用の圧電体を組紐状にしたウェアラブルセンサ「圧電組紐」を開発したと発表した。

同成果は、帝人および関西大学システム理工学部 田實佳郎 教授らのグループによるもので、1月18日~20日に東京ビッグサイトで開催される「第3回ウェアラブルEXPO」において展示される予定。

帝人 技術開発部門 ソリューション開発センター 山本智義プロジェクトリーダー(左)と関西大学システム理工学部 田實佳郎教授(右)

圧電体は、圧力を加えると電気エネルギーを発生し、逆に電気エネルギーを加えると 伸縮する特性を有する物質の総称で、その特性を利用し、センサやスピーカーなどのアクチュエータとして使用されている。

両者はこれまでに、ポリ乳酸繊維を用いたウェアラブルセンサ「圧電ファブリック」や、荷重依存的・持続的に電圧が発生する「圧電ロール」などといった圧電素子を開発してきたが、今回、日本の伝統工芸である「組紐」の技術を用いることにより、1本の紐で「伸び縮み」、「曲げ伸ばし」、「ねじり」といった動きのセンシングを可能にした組紐状のウェアラブルセンサ「圧電組紐」を開発した。

圧電組紐は、電気信号を発するポリ乳酸の圧電繊維と導電繊維からなる同軸二重組紐構造となっている。電気信号用の配線コードである同軸ケーブルと電磁気学的に同じ機能を持ち、電波や人間が発生するノイズを遮断するため、低ノイズで高感度なのが特徴。また、温度変化の影響を受けない、電解配向処理という前処理を行うことなくセンサとして用いることができる、デザイン性やファッション性に優れるなどといったメリットもある。はんだ付けが不要で、小型コネクタで容易に機器と接続することも可能だ。

ただし、圧電組紐は、曲げ変位に対して一元的応答で電圧発生するものであり、過去に開発された圧電ファブリックのように三次元空間的なモーションセンシングができないという課題もある。

そこで田實教授は、「組紐理論」という数学的な理論に基づき、日本の伝統である「飾り結び」を利用することで、圧電組紐を用いて、回転、ゆれ、脈動などといった動きの種類ごとに情報を検出するセンサを実現した。

「これまでのウェアラブルセンサでは、たとえば脈を測る際に、揺れや回転など脈動以外の微妙な動きにも反応してしまうのがネックとなっていた。圧電組紐を飾り結びにすることで、組紐理論に基づく分類表により、結びの形がセンサとしてどの動きに対応するか判断することができる」(田實教授)

たとえば、吉祥結びという形にすると、脈方向の動きだけを検出することが可能で、記者会見ではこれを利用したチョーカー型のウェアラブルデバイスのデモンストレーションが行われた。

女性の首に巻かれているのが、圧電組紐を吉祥結びにしたチョーカー。スマートフォンに脈拍の計測結果が表示されている

今後は実用化に向け、両者が引き続き共同で要素技術の研究・開発を行うとともに、衣料・産業資材製品の開発・販売を担う帝人フロンティアが用途開発を推進していくという。ファッションやスポーツアパレル、インテリア、ヘルスケアなどの用途を中心に展開していきたい考えだ。山本プロジェクトリーダーは、「社内・社外でパートナーシップを組み始めているところ。1~2年で出していける形(実用化)にしていきたい」とコメントしている。

圧電組紐を編みこんだ素材。伸び縮みの動きをセンシングできる

靴紐に圧電組紐の飾り結びを応用した例。2種類の結び方があるので、2種類の動きをセンシングすることができる

圧電組紐を飾り結びにしてコースターとして利用した例。上下方向の動きを感知できるため、たとえば花瓶に水を入れた際の動きなどがわかる

圧電組紐を活用したゴルフウェア。30個程度のセンサが埋め込まれており、これを利用したコーチングシステムも開発中だという