中央大学(中大)と宇宙航空研究開発機構(JAXA)は11月10日、イヌ用人工血液の合成と構造解析に成功したと発表した。
同成果は、中央大学理工学部 小松晃之教授、JAXA 木平清人研究開発員らの研究グループによるもので、11月10日付けの英国科学誌「Scientific Reports」に掲載された。
動物用の血液備蓄システムは存在しておらず、ペットへの輸血に関しては十分な環境が整っているとはいえない。輸血療法が必要な重症動物については現在、獣医自身が自らドナーを準備し、輸血液を確保しているという状況である。
イヌ用人工酸素運搬体としては、過去にウシヘモグロビンの重合体が貧血犬の治療薬として米国および英国で製造・販売されたことがあるものの、皮膚/粘膜/尿の変色、黒色糞便、食欲不振、発熱など多くの副作用が報告されている。
今回、同研究グループは、遺伝子工学的に組換えイヌ血清アルブミンを産生し、その物性が血液由来のイヌ血清アルブミンと同一であることを解明。また、JAXAの「高品質タンパク質結晶生成技術(Hyper-Qpro)」を適用したX線結晶構造解析により、遺伝子組換えイヌ血清アルブミンの立体構造を明らかにした。さらに、ウシヘモグロビンを遺伝子組換えイヌ血清アルブミンで包み込んだ構造のクラスタ「ヘモアクト-C」を合成し、その構造と酸素結合能を明らかにした。
ヘモアクト-Cの表面電荷はマイナスに帯電しており、血管内皮細胞から漏出することはなく、血圧上昇などの副作用はないという。また、血中半減期はアルブミンよりも長いと考えられる。原料は、ヘモグロビン、遺伝子組換えイヌ血清アルブミン、市販の架橋剤のみで、製造工程は2ステップと少なく、簡単に合成することが可能。
同研究グループによると、遺伝子組換えイヌ血清アルブミンはそれだけでも人工血漿増量剤として使用することができるうえ、ヘモアクト-Cは、赤血球代替物のほか、心不全・脳梗塞・呼吸不全などによる虚血部位への酸素供給液、体外循環回路の補填液、癌治療用増感剤などとしての応用も考えられるとしている。現在は同製剤の実用化に向けた展開を共立製薬と進めているほか、ヒト用に向けた研究も進行中だという。