東北大学は11月4日、アルツハイマー病治療薬であるメマンチンが脳インスリンシグナルを改善することを発見したと発表した。
同成果は、東北大学大学院薬学研究科の森口茂樹講師、福永浩司教授らの研究グループによるもので、10月25日付けの米国科学誌「Molecular Psychiatry」に掲載された。
現在、アルツハイマー病治療薬はドネペジル(アリセプト)に代表される3種類のアセチルコリンエステラーゼ阻害薬と、NMDA受容体阻害薬であるメマンチン(メマリー)が承認されているが、根本治療薬はない。メマンチンは、脳に局在するNMDA受容体を阻害し、グルタミン酸による興奮性神経伝達の過剰興奮を抑え、シナプス伝達ノイズを除去すると考えられている。
今回、同研究グループは、メマンチンの新しい作用機序として、脳内インスリンシグナルに関わるATP感受性カリウムチャネル(Kir6.1/Kir6.2 チャネル)を阻害することを発見。Kir6.2チャネルはシナプス後部、Kir6.1チャネルは神経細胞体に主に発現しているが、Kir6.2欠損マウスは認知機能障害を示し、アルツハイマー病モデルマウスではKir6.2のタンパク質発現が減少している。
メマンチンはこのATP感受性カリウムチャネルを阻害することで、興奮性神経伝達を促進して、シナプス後部でのCa2+濃度を上昇し、記憶分子Ca2+/カルモデュリン依存性プロテインキナーゼII(CaMKII)を活性化して、認知・記憶を改善することが明らかになった。
この結果について、同研究グループは、アルツハイマー病が脳内インスリンシグナルの破綻(脳の糖尿病)であるという仮説を実証する第一歩になるものであるとしており、実際にメマンチンは糖尿病モデルマウスの血糖値を低下させ、認知障害も改善することから、「脳糖尿病仮説」を背景としたアルツハイマー病の新規治療薬の開発が期待されると説明している。