九州大学(九大)は9月27日、プロテインキナーゼD(PKD)がヘルパーT細胞の分化に必須の分子であることを発見したと発表した。

同成果は、九州大学生体防御医学研究所 山﨑晶教授、石川絵里助教、徳島大学、理化学研究所、大阪大学らの研究グループによるもので、9月27日付の英国科学誌「Nature Communications」電子版に掲載された。

ヘルパーT細胞が担う免疫応答は本来、異物を排除する働きをするが、自分自身の正常な組織を攻撃してしまうと自己免疫疾患を引き起こすことが知られている。一方PKDは、タンパク質リン酸化酵素のファミリーだが、そのT細胞での役割は不明となっていた。

今回、同研究グループは、複数のPKDを同時に欠損するマウスの作成を試み、PKDをまったく持たないマウス(PKD欠損マウス)の樹立に成功。同マウスを解析し、将来ヘルパーT細胞になるCD4陽性細胞が激減していることを見出し、PKDがヘルパーT細胞の分化に必須の分子であることを明らかにした。

さらに同研究グループは、このメカニズムを解明するため、蛍光二次元ディファレンスゲル電気泳動という技術を用いて、野生型とPKD欠損マウスのT細胞で、リン酸化の程度に差が見られるタンパク質を網羅的に解析した。この結果、SHP-1というタンパク質を見つけ、PKDがSHP-1の557番目のセリン(S557)を直接リン酸化することも明らかにした。

また、SHP-1をリン酸化されない変異型に置き換えたノックインマウスを樹立し、同マウスでもヘルパーT細胞の分化が障害されることを見出した。以上の解析から、T細胞の分化にはPKD-SHP-1経路という新しい分子機構が必須であることが明らかになったといえる。

同研究グループは、PKDを阻害することにより、新たなT細胞の供給の制限が可能になり、自己免疫疾患の治療につながることが期待されるとしている。

T細胞受容体下流でPKDがSHP-1をリン酸化することにより適切なシグナル伝達が起こり、ヘルパーT細胞へと分化する。PKDの働きを阻害すると、新たなヘルパーT細胞の供給が減少し、自己免疫疾患の治療に繋がることが期待される