ポートと東京女子医科大学は9月6日、高血圧治療におけるIoTを活用した都市部での非対面型遠隔診療の安全性および有効性に関する実証研究を共同で開始すると発表した。

厚生労働省が実施した平成26年の「患者調査」によると、継続的な治療を受けていると推測される国内の高血圧性疾患の総患者数は1010万800人であり、年間医療費は1兆8890億円にのぼる。一方で、同省の「NIPPON DATA 2010」では、まだ治療を始めていない人を含めると、日本ではおよそ4300万人の高血圧患者が存在すると推定されており、対応が不十分であることが指摘されている。

東京女子医科大学 高血圧・内分泌内科 講座主任 市原淳弘教授

東京女子医科大学 高血圧・内分泌内科 講座主任 市原淳弘教授は、「こういった潜在的な患者を、非対面型の遠隔診療により医療機関に向けられないかというところが共同研究の発端」であると説明している。そこで今回の実証研究では、都市部での非対面型の遠隔診療による高血圧治療のメリットを証明することを目的に、安全性や診療効果、経済上の効率性などについて検証を進めていく。

「遠隔診療効果の有益性が対面型と同等かどうかが現状ではわからない。また、安全に行えるかどうか、対象者になりうるのは誰なのか、診療間隔や頻度はどれくらいで行えばよいのかなどといったことも検証していく。さらに、合併症時のバックアップ体制や経済性についても確認する必要がある」(市原教授)

非対面型遠隔診療において考えられる利点と欠点

今回の実証研究の対象となるのは、特定の原因に寄らない「本態性高血圧症」と診断された20歳以上の男女で、Bluetooth通信機能を搭載したオムロンの自動血圧計「HEM-9200T」に接続可能な通信機器を利用できる患者。被験者は、同血圧計を用いて自己血圧測定を週3回以上実施し、スマートフォンなどの通信機器を介して測定データをサーバに送信する必要がある。

今回の実証研究に参加できる患者とできない患者

一方、担当医は、定期的に患者からの家庭血圧データを参照し、治療方針を決定。テレビ電話やチャット、メールなどの通信手段を用いて所見と治療方針を伝え、内服薬を処方する。内服薬は、ポートメディカルサービスにより、自宅に郵送される。

同実証研究の実施期間は、2016年9月1日~2019年3月31日まで。適格性の確認・登録後、被験者は遠隔診療群または従来治療群のいずれかに無作為に割り付けられるが、1年後に自由意志による再割付が行われる。共同研究費の具体的な金額については明らかにされていないが、ポート側より数億円規模の費用が提供されるという。

試験およびサービスの概要と流れ

今回の実証研究は、仕事や子育て、介護などで病院へ行く時間が取れない人を想定した都市型の試験となるが、ポートは今年6月に宮崎県日南市と無医地区での実証事業を開始しており、主に高齢者に向けた地方型の遠隔性診療の有効性の検証を同時に進めている。両者は今後、高血圧だけでなく、糖尿病や脂質異常症といったその他生活習慣病への適応拡大についても検討していきたい考えだ。ポート代表取締役 春日博文氏は、「テクノロジーを通して医療における新しいエビデンスを作っていくことで社会に貢献したい」と話している。

オムロンの自動血圧計「HEM-9200T」を用いて血圧を測定し、スマートフォンなどの通信機器を介して測定データをサーバに送信する

調印式の様子