社内で2つの仕事ができる「社内ダブルジョブ」制度
もう1つの新制度である「社内ダブルジョブ」は、就業時間内の一部を他部署での仕事に当てる働き方で、6月1日の人事異動から開始されている。100人程度の応募があった中、該当部門と協議の上、認可されて実際にダブルジョブをしている従業員は35人程度だという。
「同僚の女性が育休をとっている様子や配偶者の子育ての様子を見て、女性の働き方を支援したいから人事部で働きたいという営業職の男性がいます。また、広報活動を行う部門であるCSVで働きながら、新製品開発に携わりたいという人もいます。当然、本来の所属部門で働く時間は減るわけですが、手を挙げた人は優秀な人ばかりで、元の仕事を手早く終わらせて余力でダブルジョブを行うような形になっています」と矢倉氏は語る。
1人で1人分以上働ける人たちが、余力を社内で生かすのが「社内ダブルジョブ」であり、社外で生かすのが「社外チャレンジワーク」と言えるだろう。今後、少子高齢化が進み、働き手が大幅に不足することが予想される日本において、1人が1人分、1分野で働くだけではなく、余力や才能を生かして1人分以上の活躍ができる道を示すこの制度は、他の企業にとっても参考になるのではないだろうか。
「女性の場合、働きながら家事や育児をやるという形で、すでに1人が複数の場で1人分以上の仕事をする働き方をしている人がたくさんいます。男性にはそういうケースが少ないですが、これからはそういう働き方をして経験を積み、個人の内なるダイバーシティを広げることが大切だと思っています」と矢倉氏は語る。
運用でシンプルなルールをカバー
新制度を利用している人々の評価制度に関しては、進めながら詳細を決めて行くという。今のところ、副業に関しては、プライベートの時間を当てるため本業の評価には影響がでないだろうという見解だ。ダブルジョブについては、部門を越えた交流や会話が増えるなどプラスの効果が見られるという。
「もともと、ルールは極力抑えて、かつシンプルにして、運用でカバーしようという社風です。毎年次、1年間どんな仕事・部署にチャレンジするのかを全社員が申告する制度があるのですが、これも人事がきちんとすべて見ています。機械的に一律で対応する大企業的なやり方はしたくないですね」と矢倉氏。
同社は企業として個別の事情をくんだ対応を多く行ってきている一方、従業員にも自分できちんと考えて動く自立・自走を求めている。例えば、20年ほど前から上司と部下の関係でも役職ではなく個人名で呼び合うルールになっているという。業務命令は上司から部下へと発せられるわけだが、その前の時点に存在する意見交換のシーンでは対等にやりとりしてもらうことが狙いだ。
「○○部長と肩書で呼びかけることで、報告はするが、意思決定は上司がするものという感覚が生まれてしまいがちです。そうではなく、きちんと自分で考えるという空気を作るためのルールです」と矢倉氏は語る。一見親しさを演出するルールに見えるが、その内情は意外に厳しいものだった。
「副業OK=小遣い稼ぎOK?」など、言葉だけを聞くと違った意味にとられがちな取り組みも、真意を聞くと、ロート製薬独自の切り口の下で導入されている事例ばかりなのが興味深い。副業、ダブルジョブの取り組みが、今度、同社のビジネスにどう生かされていくのか楽しみにしたい。