科学技術振興機構(JST)は、光で剥がせるタイプの新しい接着材料を開発したと発表した。

同成果は、京都大学(京大)大学院理学研究科 齊藤尚平准教授らの研究グループによるもので、7月4日付けの英国科学誌「Nature Communications」オンライン版に掲載された。

従来の仮固定用の接着材料には、熱で剥がすタイプの接着材料が広く使われているが、高温では接着力を失ってしまうという欠点があった。これに対し、光で剥がすタイプの接着材料として、光を当てると溶ける材料の応用が期待されているが、「光で剥がれる機能」と「高温でも接着力を維持する機能」を両立する材料の開発は、困難となっていた。

今回、同研究グループは、紫外光に応答する独自の分子を設計・合成し、同分子を基盤にカラムナー液晶という自己凝集力の高い材料へと発展させることで、「高温でも十分に高い接着力を示す」「光照射によって接着力が大幅に減少する」「少ない光量で迅速な剥離を達成できる」という、光で剥がすタイプの接着材料としての要件を満たす機能材料を開発。「ライトメルト型接着材料」と名付けた。

また、2枚のガラス板に挟んで同接着材料の性能を評価したところ、室温では1.6MPa、100℃の高温でも1.2MPaという高い接着力を示す一方で、紫外光を当てると液化に伴い接着力は85%低下。一般的なLED光源で紫外光を照射すると、わずか数秒間で剥がすことができたという。

同接着剤は、160℃で加熱処理することで再び接着力を取り戻すリサイクル特性や、接着状態と非接着状態を蛍光色の違いで見分けることのできる蛍光機能も備えている。

同研究グループは、今後スマートフォンなどの透明な部材を高温で加工するさまざまな製造工程において、仮固定用途の接着材料として利用されることが期待できると説明している。

「ライトメルト型接着材料」のもとになる光に応答する液晶分子の構造。オレンジ色は化合物の液晶状態を引き出す部位、青色は光反応を起こす部位、中央の屈曲箇所は光を当てたときの分子の動きを可能にする部位。V字型の分子構造は高い自己凝集力を引き出し、強い接着性を実現させている

光で材料が溶けるメカニズム。光照射前は、V字型の分子が積み重なって秩序だったカラムナー液晶構造を形成しており、高い自己凝集力を保持している。紫外光を照射すると一部の分子が反応して2量体となり、不純物として働く。不純物の2量体が生成することでV字型の分子の集積構造が崩れ、混合物として液化することで接着力が大きく低下する