名古屋大学(名大)は6月8日、統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異を同定し、患者の臨床的特徴および病因の一端を解明したと発表した。
同成果は、名古屋大学大学院 医学系研究科 精神医学 尾崎紀夫教授、東京都医学総合研究所、大阪大学、新潟大学、富山大学、藤田保健衛生大学、理化学研究所、徳島大学、台湾のChang Gung Universityらの研究グループによるもので、5月31日付けの米国科学誌「Molecular Psychiatry」に掲載された。
統合失調症は、幻覚や妄想などの陽性症状、意欲低下などの陰性症状、認知機能障害を主症状とし、社会機能の低下、高い自殺率を呈する疾患で、家系内に疾患が集積していること、遺伝率が80%と高いことから、発症の関わるゲノム変異を見つけることが同疾患の解明に重要であると考えられている。
また、ゲノムコピー数変異(CNV)とは、染色体上の一部の領域のコピー数が通常2コピーのところ、1コピー以下(欠失)あるいは3コピー以上(重複)となる変化のことで、一部は脳の発達に重要な遺伝子の機能に影響を与え、精神疾患や発達障害の発症に繋がるものと考えられている。
今回、同研究グループは、統合失調症1699名と健常者824名を対象に、統合失調症の発症に強い影響を与えるCNVを探索した。この結果、発症に関わるCNVを患者全体の9%と高い頻度で同定することができ、その頻度は健常者の約3倍に及ぶことがわかった。
また、発症に関与するCNVはヒトゲノムのさまざまな場所に存在し、患者ごとに種類が異なっており、統合失調症患者で同定したCNVには、自閉スペクトラム症、知的能力障害などの神経発達症に関与するものが多数含まれていた。実際に、発症に関与するCNVをもつ患者では、約4割で先天性あるいは発達上の問題を抱えており、また抗精神病薬を用いた薬物治療でも十分な効果を得られない場合が多いことが確認されている。
さらに、同研究グループは、統合失調症の病因を明らかにするために、ゲノムデータをバイオインフォマティクスの手法を用いて詳しく解析した。この結果、統合失調症の病因には、従来報告されていたシナプスやカルシウムシグナルに加え、ゲノム不安定性や酸化ストレス応答異常が関与する可能性が示唆されたという。
このゲノム解析の結果は、早期診断に応用されることが期待でき、さらに薬物治療への反応性を予測できる可能性も示唆されている。