5月24日・25日に開催された「de:code 2016」では、女性エンジニアに関するパネルディスカッション「Woman in Technology ~女性エンジニアの実情に迫る~」が行われた。

世間では「女性活用」が叫ばれる中、女性エンジニアがどのようにキャリア形成をしていくべきなのかに焦点を当てた内容に対し、多くの女性エンジニアを始め、男性の観客も詰め掛け、会場は立ち見が出るほどの超満員となった。

日本マイクロソフト デベロッパー エバンジェリズム 統括本部長の伊藤かつら氏

モデレータを務める日本マイクロソフト デベロッパー エバンジェリズム 統括本部長の伊藤かつら氏は、現代は"なにかひとつだけ"をフォーカスする時代ではないと感じており、その一方で人との「違い」を許容できない文化が日本にはあるのではと疑問を投げかけた。「違いというのは、気付きを与え、イノベーションのきっかけになるはず」とコメントし、男性が多いIT業界での女性のキャリアを考えるともに、「ダイバーシティ(多様性)」について探っていきたいとコメントした。

続いて、今回のパネリストの自己紹介に入った。Lara Rubbelke氏は、米Microsoftで働く女性エンジニアだ。今年度のde:codeの基調講演にも登壇している。データプラットフォームのエキスパートとして有名で、数々の大規模イベントのテクニカルセッションなどを担当している。また、女性エンジニアという観点から「女性」に関する登壇も行っている。

アールティ代表取締役の中川友紀子氏

ロボットエンジニアの中川友紀子氏はアールティ代表取締役を務めている。同社は、人型ロボット「RIC90」などを開発するメーカーだ。中川氏は「エンジニアをすることは歴史の一端を担うこと。誰かがやりたいと思ったことを叶えてきたのはエンジニアだ」とコメント。

小島由香氏は、視線追跡型VRヘッドマウントディスプレイ「FOVE」を生み出したファウンダ。ゲームプロデューサーとして働いていた時に、アイディアを思い付き、どうしても作りたいという思いからスタートアップの道へ踏み出した。小島氏は、テクノロジーカンパニーとして、代表である自分がエンジニアのバックグラウンドを持っていないことに不安や引け目を感じていたという。

働く女性は不利なのか?

最初の質問は、「女性という観点で、キャリアを積む上で苦労したこと、悩んだこと。また、どのように克服したか」だった。中川氏いわく、ロボット業界は圧倒的に男性が多いという。しかし、女性エンジニアであることが不都合だと感じたことはないと話す。逆に、女性経営者としては、ロールモデルとなるあまり女性がいなかったことが悩みだったそう。20代後半には、「仕事を頑張りたい時期だけど、家庭も築きたい」と考えたこともあったという。そこで、女性の「結婚のタイミング」について話題が移った。

FOVE代表取締役の小島由香氏

現在29歳の小島氏は、まさに「いつ結婚しよう?」問題にぶち当たっている年代だという。女性にとって30歳前後は、結婚や転職など、自分の人生について深く考える時期だとし、「女性のアラサーは、男性のアラフォーのような感覚。結婚や転職などを考える際も、男性よりも5年から10年くらい早めに考えておかないといけないと思う」とコメントした。

そこに、40歳を過ぎてから結婚した晩婚派だと話す中川氏がアドバイス。結婚を決めた時は、「会社はどうなるの?」など周りから反対されてとても悩んだという。また、14歳年下の旦那さまということもあり、ネガティブな意見もあったと話す。しかし、実際に結婚してみると、「ひとりでいるよりも世界が広がり、想像以上に楽しい毎日が待っていた」と笑顔を見せた。

米Microsoft Corporation Principle Software Development EngineerのLara Rubbelke氏

Rubbelke氏は、自身を振り返り「どこかで苦労して悩む場面があると思うが、それは苦労ではなく、機会やチャンスだと捉えるようにしている。人生に悩んでも、"すべて自分が選んだことなのだ"という能動的な気持ちが大切なのでは」と考えを述べた。

伊藤氏が小島氏に「今一番やりがいを感じていることは?」と問いかけると、「FOVEを設立して2年目。今まではゼロから作り上げていく作業が多かったが、今は街を作っているようなイメージ。ビジネスエコシステムが回り始め、今までは自分が思い描いていた物が形になっていたが、現在では、アイディアが社内外から積極的に集まり、自分が考え付かなかったことまで実現できている」と回答。組織が立ち上げ期から成長期に差し掛かるスタートアップ企業ならではの感想である。

Rubbelke氏のやりがいは、顧客やパートナー企業と今まで実現しなかったことを実現できた時だという。自分が起こしたたったひとつの変化が、多くの人にポジティブな変革をもたらす過程に大きな達成感を覚えるそうだ。

一方、中川氏は後進となる若者を育てることだと話す。若いエンジニアにたくさんの機会やスキルを与え、成長を感じられた時が嬉しいと明かした。仕事面としては、自身が取り組む「人と一緒に働くロボット」の開発だという。今までのロボットは、危険や壊れ易さが伴い、人が触ることが難しかった。しかし、触るという動作はコミュニケーションとして重要なことだと考えており、「触れないロボットはサービスロボットではない」くらいの意気込みで開発を続けていると話した。

会話を受け、伊藤氏は「今はITの位置付けが変化している。誰もがITの恩恵を身近に受ける時代。使う側にも女性がいるということは、作る側にも女性がいないとダメ」と考えており、女性エンジニアを積極的に応援したいとコメント。

日本の女性エンジニアは有利!どんどん海外へ飛び出すべき

働く女性エンジニアへのメッセージを求められると、中川氏は「やれるのなら、好きなことやったほうがいい。制約を課しているのは自分自身。女性にはいろいろな選択肢がある。いざとなれば、体力も根性にも女性の方が強いと思います」と述べた。

小島氏は、「やりたいと思ったら思い切ってやることが大事。やってみると意外となんとかなる。周りの目を気にせず、自分がしたいことをやってほしい」と話した。Rubbelke氏も同じ考えだそうで、「日常を当たり前のこととして受け止めないでほしい。身の回りに疑問を持ち、今ある前提をくつがえすように常にチャレンジを続けてほしい」とコメントした。

最後に、伊藤氏は「日本では女性エンジニアというだけで注目が集まる。海外ではアジア人女性というだけで覚えてもらえることもあった。せっかく日本人に生まれたのだから、どんどん海外に進出して目立ってほしい」と会場にエールを送った。