日本電気(NEC)、NECトーキン、東北大学は4月25日、新しい熱電変換技術である「スピンゼーベック効果」を用いた熱電変換デバイスにおいて、従来比10倍以上の変換効率向上を実現したと発表した。同成果は、3月15日付けの英国科学誌「Scientific Reports」に掲載された。

スピンゼーベック効果は、温度差をつけた磁性体において、温度勾配と並行に電子が持つ磁気的性質であるスピンの流れ(スピン流)が生じる現象。東北大学(研究当時は慶應大学)齊藤英治教授、内田健一准教授らにより2008年に発見された。一方、熱電変換技術は、無駄に捨てられている膨大な廃熱を再び電力に変換して利用できる技術で、省エネや温室効果ガス排出削減に向けた活用が期待されている。スピンゼーベック熱電変換デバイスは、製作コストが安く、汎用性、耐久性が高いなどの利点があるが、変換効率が劣ることが課題となっていた。

スピンゼーベック熱電変換デバイスは、電力を取り出すための電極材料として、従来高価な白金が用いられていたが、今回3者は、白金を代替する新しい合金材料であるコバルト合金を開発し、大幅なコストの低減に成功。さらに、このコバルト合金に磁性の性質を与えることで表れる「異常ネルンスト効果」と呼ばれる熱電効果を「スピンゼーベック効果」と併用することで、白金を利用した素子の10倍以上に熱電変換効率を向上させた。

また、従来の700℃と比較して、約90℃と圧倒的に低い温度で、スピンゼーベック熱電変換デバイス用に緻密なフェライトの膜を作製できる成膜手法を採用。これにより、素子をプラスチックフィルム等の表面に作製することが可能になったうえ、さまざまな形状に加工して活用できるフレキシブル素子が実現できるという。

今後3者は、熱を大量に排出するプラントやデータセンターなどの建物、自動車などの廃熱から発電を行う技術の実用化に向けて研究開発を進めていくとしている。